拙い口づけで世界は廻る

莇により下された妥協した挙句の夜食禁止令を実行して一週間。普段なら冷凍ピザとコーラを片手にめくるめくるプライベートタイムに取り組む筈が、ここまで何も食さずにゲームにだけ集中する至の姿は正直見たことがなかった。余程の圧を掛けられたのだろうか…、と思う反面、健康的には勿論プラスである事には変わりないし、こちらも夜食の誘惑に葛藤しなくて済むのは正直有難い。極力手を出さない様に我慢はしているものの、あんな美味しそうに食べられたらこちらの自制心も揺らぐというものである。そもそも、夜食を頻繁にとっている筈なのに、あの体型を維持しているというのは心底疑問しかない、どういう体質をしているんだと。
ロード画面の合間を狙いコントローラーを膝上に置き、至の頬に手を伸ばす。指先で軽く突くとそれに合わせて肌が沈む。
「…なんでよ!」
「何故か唐突に怒られる俺」
「夜食やめたらこんなに肌すべすべになるとかズルい!」
「あ、そこ?」
思わず怒りたくもなるぐらいすべすべだったのだ、どんなスキンケアをしたらこうなるのかと思う程に、至の綺麗な肌が羨ましく誠に遺憾である。そのまま突き続けていると、伸びてきた至の両手が鈴音の両頬を包む。
「もちもち度は鈴音のが上だから」
そのまま軽く頬を揉まれたかと思うと、少しずつ縮められる距離に、思わず咄嗟に目を瞑る。柔らかい感触は降って来ず、ゆっくりと目を開けると、そこには笑いを殺して心底楽しそうな至の姿がいた。
キスされるかと思った?と言わんばかりの笑顔に名前を呼んで反論をしようとしたところ、二段構えの不意打ちに声ごと飲み込まれた。
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