指切りセプテンバー

風呂を済ませ、プライベートタイムに備えて一通り準備を終えてから103号室の扉をノックする。ゲームに集中して返事がない時もあるが、それでも一応ノックはしている。そして、今回も返事がない。ドアノブに手を掛け、扉を開くとそこにはゲームをしている訳でもなく、床に座り込んだ姿勢からソファーに突っ伏すように顔を埋めている至がいた。
「…寝てる」
無造作に髪に乗せられていたタオルを持ち上げると、その髪は水滴が滴り落ち、まだしっとりと濡れていた。こちらが風呂に入っている間に乾かしもしなかったのが目に見える。それはよくある出来事で、風呂上がりに半乾きのままゲームを進める至の髪を乾かす、なんて事はもう慣れてしまった。
しかし、どうやら今回は勝手が違う模様。余程疲れていたのだろうか、スマホを触っていたまま寝てしまったのだろう。ひとまず、投げ出されていたスマホを手に取り、充電コードを指す。枕にしているところに座り込むのも如何なものか、なので並ぶように床に座り、同じような姿勢で、綺麗に整った寝顔をちらりと覗き込む。ゲーム音のしない静かな部屋に微かに聞こえるのは至の寝息。

さて、どうしたものか。自室に戻ってもいいのだけど、このままの至を置いておくには気が気ではない。せめてでも濡れた髪を乾かせたら…、かといって熟睡している至を無理やり起こしてまでする必要があるかと言われれば、それもそれ。
考えても拉致があかないなぁ、と思いながらその指は至の手に伸びる。細くて長く、でも男の人を感じさせる整った手。この手が好き。触れたところからじんわりと熱が伝わる。暖かくて、心地よい、もっと触れたい。なんて、そんな大胆な事をするのは流石に相手が寝ているとはいえ羞恥に堪え難いので、少し遠慮がちに指を絡める。それだけで単純な事、心が満たされてしまうのだ。
「至、好きだよ」
本当、心底この人に心を奪われている。どうせ聞こえていないんだ、少しぐらい素直になってもいいかもしれない。
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