曖昧こそがすべて

好きなゲームのリアルイベントに参加したものの、終了後に会場を出ると混雑混戦の大渋滞。この人混みは如何なものか。呆然と立ち尽くしたまま、隣に立つ至に視線を向けると同じ様な表情でその人混みを見つめていた。

この状況下で寮まで帰るのは無理ゲーと判断した至により、急遽宿をとる事になった。ベッドの上に座り込み、部屋の片隅で電話をしている至の背中を見つめる。いつもの103号室ではないところに、至といるのは何かと不思議な感じがする。暫くすると、電話を終えた至が此方に向かってくる。
「監督さんに連絡入れといた」
「大丈夫って?」
「うん、俺が責任もって鈴音のこと見るからって伝えておいたよ」
さも当たり前のように、さらりとそんな言葉を言うものだから思わず息を飲む。返す言葉も見つからず、視線だけふいと外す。ギィとスプリングが沈む音と共に隣に至が腰掛ける。
「部屋、取れたのはよかったけど、ベッドは一つだね」
「……だから?」
「いや、俺は床で寝ようかなって思うんだけど」
そのまま止まる言葉と少しの間。答え待つ至の顔に視線を向けると、鈴音はどう思う?と顔に書いてあるような心底含みのある笑顔。本当に、わかってて、こう言うことをする!
「べ…べつに、ベッド使っていいから!」
「そう?じゃあ鈴音のお言葉に甘えようかな」
あたかも普通を装いながらも嬉々とした声色で返す至は、そのまま背中をベッドに預け、ソシャゲを起動する。いつもなら、当たり前のように103号室のソファーを借りて寝たり、時には至と一緒の布団で寝る事もある。寮での日常が、好きな人と同じ空間にいる事が、どれだけ贅沢で当たり前じゃないんだろう。103号室ではなく、ビジネスホテルの一室にいる事で気付かされるなんて。そう思うと、この密室に二人きりと置かれている現状に意識をせざるを得ない。考えれば考えるほど恥ずかしい!駄目だ、お風呂で頭でも冷やしてこよう。羞恥により赤く染まりきっているであろう頬を彼に気づかれる前に、スマホを置き去りにしてベットを立った。
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