出口がないと帰れない

チケット余ってんだ、と差し出された二枚のチケットを有無を言わず鈴音の手に握らせながら万里の一言から発端した遊園地Wデート。響きだけならまるで二次元、少女漫画の様な展開。悲しい事に現実はそう甘くは無い。
アクティブにアトラクションからアトラクションへ梯子をしつつショッピングも嗜む万里と彼女の熟練された手馴れっぷりには至は勿論、鈴音も次第に遅れを取っていた。空いたベンチに腰を下ろし隣でくたばっている至と並ぶように鈴音も座り込む、一番年下だというのにこの体力の無さを改めて痛感する。心配そうな顔をした先輩が買って来た飲み物を恐れ多くも受け取った鈴音は一口、口に含む。回復薬のごとく、身に染みる。諸々とヒートしていた頭が冷え、冷静な考えが少しずつ戻ってくる。
強引ながらも折角誘ってもらって来たというのに、このままでは確実に先輩二人の足を引っ張ってしまう、と判断した結果、ゲートを出るまで別行動という案を半ば強引に至と共に押し付けたのだ。

それからはというものの、アトラクションに乗るわけでも無く、ショーを観るというわけでも無く、ぶらぶらと歩いては座ってソシャゲをして時間を潰して。これじゃあやってる事は至の部屋にいる時と変わらない、デートって難しい、わかんない事ばかり。不甲斐なさから思わず零れた溜息に、至の視線がちらりと鈴音を捉える。
「鈴音、あれ乗らない?」
指差された先には大きな観覧車。気を遣わせてしまったのかも、と少し罪悪感を感じながらも、こくりと頷く。

身体休めも兼ねて、乗り降りを繰り返しもう何周もしたかはわからない観覧車。お互い向かい合って座りながら外を眺めたり、ソシャゲの体力を消化したり。ロマンチックなムードの欠片も無い。少女漫画は本当ロマンの塊なんだなと、つくづく実体験で思い知らされる。結局、何処に居ても根っこは変えられない。でも、こうして至と二人きりで、観覧車の中にいるシチュエーションは、鈴音にとっては十分に甘い少女漫画に値する。伏せ目がちに至を見つめると、スマホから顔を上げた至と視線が交わった。
「あんまり見つめられると、流石の俺も恥ずかしい」
「そ、そんなんじゃなくて!ただ……ちょっと、至とこうしてるの少女漫画みたいだなって……」
消え入りそうな声で言ってしまった言葉に、段々と恥ずかしくなってくる。至の顔を見ていられなくて、慌てて視線を外の景色に向けた。初めて乗った時はまだ明るかった空が、次第に赤く染まっていた。

ふと、影が落ちる。
視線を上げると向かいに座っていた至が目の前にいた。顔の横に両手をつかれ、覆い被さるような形の至との距離が縮まる。
「い、いたる、あの」
「大した事、出来なくてごめんね。俺、本当体力無くて。万里みたいに出来たら良かったんだけど」
「別にそんな、こと思ってない」
「マジか、…鈴音は優しいな」
至が口を開く度、肌に感じる吐息。輪郭を撫でるように緩やかな手付きで頬に触れる右手。そんな雰囲気なんて微塵もなかったのに、突然のギャップに頭がくらくらする。耳朶を触られ、思わず目を瞑ると、頬に、唇に、柔らかい感触が降ってきた。
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