ぼくの反対側

至、と呼ばれた声と共に扉がノックされる音。呼び声に答え、軽く扉を開けると少し前食堂で別れた鈴音の姿。ここまではよくある朝の光景だが、今日は鈴音の雰囲気がいつもと違う。
「あれ、衣替え?」
「うん、もう暑いし…」
花咲指定のブレザー姿ではなく、お気に入りのベストを着用している。久し振りに見る鈴音の夏制服姿は、至自身着ていた時代が相当前に遡るという事もあり、新鮮に映る。惜しげも無く晒される二の腕がどうも眩しい。当の本人はというとそんな事気に留める訳もなく、片手に持ってたスマホを軽くタップし、画面を至に向ける。
「ここの編成、これでいい?…至、聞いてる?」
思わず逸脱したままになっていた思考、顔を覗き込まれ、ようやっと我に返る。軽く返事を返し、説明を加えながら編成を組み替えていく。

衣替え、夏制服。思わず魅入っていた、という事は言い訳としておこう。しかし、日に日に暑くなってきたにも関わらず、年中スーツに袖を通している自分との年の差に、多少なりともダメージを受ける。もう着る機会の訪れない制服を目の前の彼女は身につけている。普段はそう考えもしない大きな年の差が、至と鈴音の間にあると明確づけられているようだ。
「これでボスまで行ける筈、詰んだらまた言って」
「ありがとう、至」
決定を押し、確定した画面。それをじっ、と見て理解したのか笑顔を見せた鈴音。くるりとスカートを翻し、去っていく後ろ姿に何処か心が寂しく感じた。
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