雨音と君のごきげん

迎えに行くから待ってて、と連絡が入ったのは数十分前の事。委員会が長引き、気が付けば外はすっかり陽が落ちようとしていた。そして生憎の雨。天気予報を見た時は、確かににわか雨が降ると言っていたが、降るまで学校に残る羽目になるとは思っていなかったので置き傘も折りたたみ傘もなし。しかもにわか雨のレベルは等に越し、最早土砂降り寸前と言った模様。一緒に帰る知り合いもおらず、万里先輩ももう帰ってしまっているであろう。大きな溜息を吐き、濡れて帰る覚悟をしたところ、至からのLIMEの通知が音を立てる。
そして冒頭へ戻る。定時上がりの至を下駄箱付近で待つ、と言うのもなかなかに新鮮なもの。こういう展開は少女漫画で見かけた事があったが、まさか自分自身が体験する日が来るなんて思ってはいなかった。なんともまぁ、貴重な経験だこと。
雨音が水溜りを叩く景色の向こう、見覚えのある車が通り過ぎる。その後響く通知音。暫くすると、黒い傘を差したスーツの男が小走りでやってくる。
「至」
「ごめん、待たせたね。濡れてない?」
「うん、学校出る前だったから平気」
「それならよかった、じゃあ帰ろうか」
差し出された傘の隣に立つ。濡れないように、と引き寄せられた肩の所為で距離が近い。此方側に大目に差し出される傘のお陰で制服は濡れていないが、もしかしたら至は濡れてるのかもしれないのに。至の些細な行為一つ一つが優しくて、不思議と心臓が高鳴る。普段、あれだけ一緒の部屋で隣に座ったりしているけど、それとこれは別なんだと心底思い知らせる。本当、優しい人。
一連の出来事の事もあって、至がまるで王子様の様に見えてしまったことは、口に出すのも恥ずかしいので内緒にしておこう。
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