融点でふたり

水滴が滴り落ちる髪に触れる。相変わらず風呂上がりの髪は乾かされないまま室内に帰ってくる為、いい加減風邪でも引くんじゃないか、とつくづく思う。至の首に掛けられたタオルを剥ぎ取り、そのまま髪に被せる。当の本人はされるがまま、と言ったところで。幾分気にすることもなく、コントローラーを握り、テレビへ向かい合っている。その間に勝手に髪を乾かすのが鈴音の役目である。もう日常茶飯事で慣れっこなのだが。
しっとりと濡れきっている至の髪は、いつものふわふわとした感触とはまた違うもの。タオルの上から撫でても不思議と手に馴染む。こんな事、至に出来るのは自分だけだと思うと、多少なりとも優越感を感じてしまう。風呂上がりの彼を拝める事自体、特別だと思いたい。
そう、気分が高揚していたからだ。タオルに添えていた手はするりと至の襟足を撫で、そのまま首筋へと流れる。そのまま髪を掻き分け、その頸へと顔を寄せる。
「っ、鈴音?」
突拍子もない行動に、これには流石の至も反応せざるを得なかった模様。その様子に思わず心が躍る。問い掛けに答えもせず、再び吸い寄せられるよう、頸へ唇を当てる。軽いリップ音と共に、首筋に咲く紅い色。
手首を掴まれたと思うと、思わず我に帰る。目の前には、至の首筋ではなく至自身が何とも言えないような複雑な表情を浮かべていた。
「あ」
「随分と積極的な事?」
「や、そういうわけじゃなく、て」
ぐい、とそのまま詰められる距離感。無意識ながらも先に仕掛けたのは鈴音自身である。何も反論することは出来ず、至の行為に流されるだけであった。
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