たぶん、おそらく

急遽といっても過言でないレベルで組まれた出張日程に既に気が滅入っている。仕事帰りの足取りも重く、自室の城に戻ってからも浮上しない至のテンションに、先客の鈴音は首を傾げる。
「何かあったの?」
「緊急クエで出張が入った」
「いつから?」
「明後日から1週間程」
え、と露骨に顔に書かれている様な表情を鈴音は浮かべた。思わずスマホを弄る指が止まっている。今まで出張がどうだ、は確かに過去に何度もあったが、こんな急な出張は初めてに等しかった。しかも一週間と期間が長い。その現実に対し、出張を受けた至本人ではなく、部屋に居座っている鈴音の方が困惑気味である。寮を出た年末年始でさえ、初詣に乗じて会う時間があったのだ。
「明日からイベント始まるってのに…」
「そ、そうだね」
言葉から分かり易い程の動揺。スーツを脱ぎながら鈴音の変化を感じ取った至は、ソファーの隣に腰を下ろし顔を覗き込む。
「もしかして、寂しい?」
さも意味有りげに笑い掛けてくる至の視線を思わずクッションを盾にして塞ぐ。図星であるのはバレバレだろうけど、易々と答えるには羞恥が勝る。
「まぁ、俺がいなくても好きに使ってていいからさ」
勿論、ベッドも。と余計な一言が付け加えられた事により、鈴音の手から至の顔面にクッションが放たれる時間が早まるだけだった。
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