明ける音

ヘッドフォンをし、動画サイトのアプリを起動する。至の、というよりたるちの新作実況が上がったのだ。至自身と知り合う前から元々ファンでリスナーだった事もあり、今でも欠かさずアップロードされるゲーム実況を追いかけている。実際至が実況している場面をリアルタイムで眺めたり、今となっては隣に並んでゲームをしたりしている。画面越しに声だけ知っている人だったのが、こう思うと奇妙なものである。ヘッドフォンから聞こえてくるゲーム音と至の声を堪能しながら、部屋の家主が仕事からまだ帰らぬのを良い事にソファーに寝転がる。
この前撮ってたやつだなぁ、そう思いながら意識を液晶に移しているとうつらうつら、睡魔が襲ってくる。ヘッドフォンをしている分、更に効果は抜群だ。耳元から直に脳へと流れてくる至の声に、鈴音の意識が持っていかれるのはもう間も無くの話。

帰宅した至は夕飯前にも関わらず、ベッドの上ですやすや寝息を立てている鈴音の顔を覗き込む。
「ヘッドフォンつけたまま寝落ちとは」
起こさなくとも、暫くすれば目覚めるだろう。そう思い着替えを進める最中、鈴音の手から滑り落ちたスマホが音を立てる。どうやら、自動ロックがかからないように設定されたその画面に表示されていたのは、たるちのゲーム実況詳細画面。これには思わず至も表情を変える。
「マジか」
つけたままのヘッドフォン、表示された動画サイトのアプリ、そして至のゲーム実況。ここから予想される出来事は言葉にせずとも理解できる。嬉しさを隠しきれない感情を押し込めながら、目を覚ました時鈴音がどんな反応を示すのか、仕事疲れすら吹き飛ぶ楽しさを感じた。
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