呼吸音をリピートして

スーツに袖を通す事すら最早憂鬱になる季節、出勤する気も重くなる。通学まで時間が余ったのかソファーに座りせっせとログボ回収をこなしている鈴音の頭が小刻みに揺れる。偉く上機嫌だこと、そう思いながらその後ろ姿にちらりと視線を向ける。二つに束ねられるように結われた髪から覗く白いうなじ。梅雨ならではのじめじめとした蒸し暑さの所為か、妙な気分にさせられる。いやいや待て、まだ朝方であり出勤前。何を考えているのか、とそう頭では冷静に対処しつつも両手はするりと鈴音の肩へ伸びる。ぴくり、と鈴音が反応するのが伝わる、次に飛んでくるであろう言葉を聞く前に、そのうなじへと唇を寄せる。静かな室内に響く軽いリップ音。唇を離すと白いうなじが紅く色付いている。嗚呼、やらかした。
「いっ…!?」
肩に置いた両手すら振り解く勢いで、鈴音が此方を見る。その表情はまさに案の定、ここまでかと思う程真っ赤に染め上がっていた。
「いや、つい」
「ついじゃないでしょ!?」
伸びてきた両手にがっしりと腰元を掴まれ、勢いよく前後に体を揺すられる。てっきりビンタが飛んでくるかと正直覚悟したが、それは無かっただけまだ温情。怒ってはいるのだろうけど、何とも言えないその表情がまた一層可愛く、一度熱した脳内は収まらず。
「うなじが駄目なら唇は?」
「そ、んなの駄目に決まって」
反論が返ってくることは予想通り。その言葉を途切れさすように、唇を重ね合わせた。
ALICE+