やさしさ主義

コスプレとかそういう次元ではなくて、まるでゲーム画面から本物が飛び出した様なそんな錯覚にすらなった。舞台衣装を見に纏った至は正に昔からやり込んでいるゲームの一つ、ナイランのランスロットそのものだった。コラボ舞台をやる以上当たり前なのかもしれないが、鈴音にとっては余りの完成度の高さに目をパチクリと見開く。率直に浮かんだ感想は、カッコいい。その物でしかなかった。
「凄い……」
練習の手伝いをしに来たところ、レッスンルームに入った途端見事に立ち尽くしている鈴音に気付いた至は、近くに歩み寄る。
「鈴音、呆けてるけど」
視界の前で手を振る至の行為にようやっと意識が戻る。上から覗き込まれる様に見てくるその顔。無意識に伸びた鈴音の手は至の前髪に触れ、揺らす。
「分け目が違う…」
「そりゃランスロット仕様だからね」
この前の公演の時は分け目のない髪型だったが、こう前髪云々で受ける印象が大きく変わるとは、不思議である。付け加えて顔が良いものだから、魅入ってしまっても仕方がない。
「その髪型もいいね」
率直な感想に、至が一瞬面食らったような表情を浮かべたかと思うと、顔が近付き、耳元にそっと寄せられる。
「俺がランスロットだから素直なの?」
囁かれる様に吐き出された声に背中がゾクゾクとする。
「そういう、訳じゃないけど」
カッコいいと思っただけ、と小さな声で呟く。至からの反応はなく、一瞬の間が生まれる。思った事を言ったまで、なので否定はしない。ゆっくりと顔を離し、距離をとった至の表情は満足そうな笑みに変わっていた。
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