したたかであれ

日も陰り、客足も少し落ち着き始めた頃。
遅くなりました、とよく通る声と共に、エプロンを身につけながら厨房へ駆けて来た亜樹の姿を捉える。お疲れ様、一声掛けると笑顔を返す亜樹は、安室と梓の仕事を埋める配置につく。調理を進める手を止める事無く、視線だけをちらりと亜樹に向ける。エプロンを翻し、注文を聞きに行くその後ろ姿はいつ見ても気持ちがいいものだ、その若さに思わず感心してしまう反面、どこか微笑ましくも思える。まるで兄を思う様に、親しくも懐いている彼女の事を嫌悪する感情は沸かなかった。現役女子高校生との年の差はさておきとして、だ。片した食器を流しに運び終えた亜樹が隣に立つ。カチャリ、食器が触れ合う音が響く。
「今日は部活?」
「ううん。委員会が思ったより長引いて…」
問えば返ってくる彼女の日常は、亜樹にとっては些細なものかも知れないが、幾分平穏な日々は安室の心を安堵させる。柄では無いのは理解している、その資格すらないとも言える。それでもどこか、彼女が過ごす日々が自分にとっても生きている現実でありたいと思う願いは、捨てきれない。
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