サイダーの笑顔

バイトか終わる頃には天気も下り坂。気が付けば雨足も小雨から強くなっていた。生憎今日は自転車も無く、傘も無い。窓から外の景色を眺め、走れば帰れないことはないか、と考えている亜樹の元に安室が近づく。
「亜樹ちゃん、帰れますか?」
「走って帰ればなんとか!」
本降りになる前ならまだどうにかなりそう、と答える亜樹に、鞄を手にした安室が問う。
「僕が送りますよ、風邪でも引かれたら困りますし」
「えっ、安室さん。ええの?」
「勿論。車出してくるので待っていて下さいね」
なんともまぁ予想外の展開に。まさか安室の車に乗せてもらえる機会が、こんな形で巡ってくるとは思ってもいなかった。慌ただしく荷物を纏めながら梓に挨拶をし、心地のいいベルの音を鳴らしながら亜樹は扉を開けた。


助手席と言うものは良いものだ、どことなく感じる特別感、助手席だから見ることが出来る光景もある。片手でハンドルを捌きながら運転する安室の横顔は心底様になり、つい魅入ってしまう。
「安室さんは運転上手なんよね?」
「そうですか?普通だと思いますよ」
そう、答えながらもその横顔は何処か嬉しそうに感じられる。この図らずとも二人きりで、ひしひしと幸せを感じてしまう空間に思わず亜樹も笑顔を浮かべる。
「どうかしましたか?」
「ううん。安室さんの車に乗れるなんて思わんかったから、嬉しくて!」
「亜樹ちゃんは普段自転車ですものね」
言ってくれればいつでも乗せますよ、視線をちらりとこちらに向けて発せられる言葉に亜樹の笑顔が輝く。こんな嬉しい事があっていいものなんだろうか、憂鬱な天気とは真逆に晴れ渡る心の中。少し遠回りな家までのルートを走っている事に、上機嫌な亜樹は知る由もなく。
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