気が緩んだ時に思わず出た欠伸を咬み殺すと、亜樹の視線が此方を向く。
「安室さん、寝不足?」
「昨晩ちょっと遅くて…」
嘘は言っていない。確かに、眠りが浅くなってしまったのは事実だ。それが自分の所為であるのは重々理解している。
「安室さんにもそんな事あるんやね」
回収した皿を流しに置きながら亜樹は首を傾げる。その問いかけに、一体どう思われているのか少し笑ってしまう。
「そんな事ありますよ」
「あ!もしかして怖い夢、見たとか?」
怖い夢。そう言われるとそうなのか、そうではないのか。判断はつかなかった。答えを返せないままでいると、皿洗いをし出した亜樹が弾むような声で喋る。
「安室さんもちゃんと寝なあかんよ」
怖いことも寝たらきっと忘れるよ、と付け足された言葉。遥か昔、似たような事を言われたような記憶が脳裏を過る。当時の面影と亜樹の姿が重なって見える。思わずその小さな頭に手を伸ばす。
「…ありがとう」
にこり、と笑顔が返ってくる。その笑顔に、どこか少し浮ついたようなままだった気持ちがスッと落ち着くような気がした。