リニューアルオープンした東都水族館に意気揚々と足を運ぶ。前々から行ってみたいと思っていた所だったが、まさか安室から直々に誘われると思ってもいなかった亜樹の足取りは軽い。買い出し等で出掛ける事はあるが、こういう娯楽施設に共に来る機会があるとは思ってもいなかったのだ。隣を歩く安室の顔をチラリと覗き見る。普段、ポアロでしか繋がりのない安室の事は知らない事が殆どだ。プライベートでの付き合いというものはなかなかに新鮮である。
「安室さん、こっちこっち!」
それならここぞとばかりに楽しませてもらおう、そう思い安室の腕を引く。嫌な顔一つせずついて来てくれるのをいいことに、人混みを掻き分けながら進んで行く。水槽に両手を付き、見惚れている亜樹の横で安室の着信が鳴る。スマホを手にした安室の表情が一瞬変化する。疑問を抱いた亜樹が声を掛けようとしたところ、いつもの表情に戻っていた安室は困り笑顔を浮かべた。
「亜樹ちゃんすみません。ちょっと…」
「ええよ、気にせんといて!」
「ありがとうございます」
申し訳なさそうに断りを入れた後、小走りで去って行く安室の背を見送る。きっと、何か大事な事があったというのは理解出来る。突如バイトを早退したり、欠勤したりする姿を見ていたので、怒ったり呆れたりなんてそんな感情は当に湧かなかった。彼は社会人、知りもしない諸事情は沢山あるんだろう。
「ふらっとしてたら帰ってくるかな」
取り出したスマホに向かい、"館内巡ってます"と一言連絡を入れる。どうせなら写真も送りつけておこう。煌びやかな雰囲気の中、一人で残された亜樹は水槽に向けてシャッターを切った。