見えざる思慕

今日の営業も大繁盛のまま終わりを告げる。賄いを作りに行った梓の背を見送ってからエプロンを外しす。程よくお腹も空いており、梓のお手製パスタを楽しみにしながら、三人分のお冷やをコップに入れて席に着く。入れ替わりで帰ってきた安室が姿を現した。
「試作品ですが」
亜樹の目の前に差し出された皿の上には小綺麗に盛り付けられたアップルパイ。突然の事に驚き、顔を上げると笑みを浮かべた安室が亜樹を見た。
「よければ、食べて貰えますか?」
「ええの!?」
「勿論」
嬉々としながらフォークを手に取る。元々、安室の手料理が大層好みな亜樹にとっては賄いであれ、試作品であれ、嬉しい事には違いない。サクサクとしたパイ生地にしっとりとした林檎の光沢がまた食を唆る。フォークで刺し、口に含むとじんわりと広がる甘味に思わず頬を抑える。
「めっちゃ美味しい…!」
味わいながらも食べる手は止まらず、アップルパイを求める。
「安室さん!これ、本当に美味しい!」
「本当ですか?商品化の候補に入れようかと考えていたので、亜樹ちゃんからは好評ですね」
「いくらでも食べれちゃう…」
「それならまた作って見ますね」
心底幸せそうな顔をして手料理を食べる亜樹に、安室も嬉しさが込み上げる。美味しいと、言って貰え、食べて貰える事は作った方も満たされるのだ。
試作品、というのは名目上で。良い林檎が手に入った時、食べて欲しいと浮かんだ顔が亜樹だった、という事は安室だけの秘密である。
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