「夏休みの宿題が終わらないんだ」
卓袱台を挟んで深刻そうな表情を浮かべた幼馴染はそう告げた。
さて、こうなったのか毎度の如く一から話そう。澪からのメールが入ったのは二時間前。本文に"来てくれ"と一言だけが示されていた。これだけなら誤送信の可能性もあるので電話を掛けてみた。
「頼むから来てくれ」
その一言で通話は切れた。よく分からないまま一通りの荷物を纏め寮を後にした結果がこれだ。流石の俺も今回呼ばれた原因には呆れ声しかでない。
「はぁ?」
「だから宿題が終わらないんだ。凛、こう見えても頭が良いだろう?教えてくれ!」
「こう見えてもはどう考えても余計だろ!」
駄目だ、澪のペースに乗せられたらいけない。
どうしてもだ!差し出された本やノートをぺらぺらと捲る、そういえば英語が苦手だと言ってたような記憶はある。…わかっていても結局俺も澪には甘いんだ。
「あー、もうわぁーったよ!仕方ねぇな、見てやるから早くペン持て」
「本当か!!ありがとう凛!!」
こうやって嬉しそうに笑うから甘くしてしまうんだよ。
そして開始から数十分後。
「……澪」
「………」
「……おい」
「成る程わからん」
「成る程、じゃねぇよ!!」
「いきなり大声を出すんじゃない、びっくりするではないか!」
「…お前なぁ」
ひとつ、大きな溜息が口から零れ落ちた。ペンの進まない白紙に近いページに目線を向ける。苦手とかいうレベルじゃねぇぞ、これ。一体何処からどう教えていけばいいんだ。ちらりと視線を上げると机に突っ伏す澪の顔にときめいてる場合ではない。
「よし、凛かき氷を作ろう」
「はぁ!?宿題はどうしたんだよ!」
「息抜きだ息抜き!私はかき氷機を用意してくるからな!」
「あ、おいちょっと!!」
静止の声は届くはずもなく素早く立ち去っていった後ろ姿を見送りながら本日で何度目になるであろうか溜息が口から零れ落ちた。