手をのばせば、君はそこにいる

怖くないから見ていて欲しい、そう告げた瞳は何時もの強気な光が揺らいでいた。陽が傾き橙に染められた水面向かい一歩、一歩足を運ぶ幼馴染の背中を見つめる。手を伸ば届く距離にはいる、此の儘海の底へと消えてしまう事はないとは頭ではわかっていても澪が離れていくのを引き止めたいのは俺自身、情けない。緩やかな波の音が響く、澪の足が止まる。
「澪、これ以上は」
「大丈夫だ」
大丈夫じゃないから言っているんだ。言葉にするのももどかしい、肩を掴み無理矢理にでも引き返えさせようとした筈が、手を振り払おうとした澪とタイミングが重なってしまう。バランスを崩した事でぐらりと傾いた澪の身体は水面に吸い込まれるように落ちていく。



水音が響き静かに押し寄せられる波に制服が背中から徐々に水を含んでいく。浜辺側でよかった。幸い肩を掴んでいた事から身体を引き寄せ反転、背中から倒れこんだ事で水飛沫を浴びてはしまっただろうけど澪自身を海に放り込むのは阻止出来た。安堵の溜息が溢れ背中に回していた腕を解放する。
「大丈夫か、澪」
返事はない。胸元にしがみついたまま身動き一つせず少し荒い息遣いが耳を掠める。
「凛」
澪はまだ怖いんだ、海が、水が。
「凛」
「俺は生きてる」
鼓動を聞いているんだ、縋るようにシャツを掴み胸元に耳を寄せた澪が、四年前の幼い姿と重なった。

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