むんず、突然襲い掛かる鼻への違和感に気持ち良く昼寝をしていた瞼をこじ開ける、紫の瞳と真正面から視線が合う至近距離。
「おぉ、起きたか!」
嬉々とした反応を浮かべる澪は俺の鼻を摘まんでいたらしい。寝ている俺の息でも止める気だったのかお前。手を離された事によりようやく違和感から解放される。
いや待てそれより突っ込みたいところが何点もあるんだが。俺の部屋に何故澪がいるという事だ。
「ん?何故私が凛の部屋にいるんだという顔をしているなそれは!凛の母さんが江と出掛けるタイミングにお邪魔したので留守を預かったのだ!」
「それでかよ…」
「まぁ折角の凛の帰省だしな、存分に構ってやろうと思ったわけだ」
「構うって…お前なぁ」
「あながち間違いではないと思うが?」
間違いであって貰わないと困る、俺が寝転ぶベッドに身を乗り出すその姿はいくら幼馴染と言えど不用心にも程がある。人の気なんてこれっぽっちも知らない笑顔が俺に向けられる、近すぎるのも如何なものか。最近思うようになってきた、多分このままだと幼馴染から進展しないんじゃないかと。
「それなら構ってくれ」
「よしきた!…って、何!凛が、そんな反応を返すだと…!?」
「澪が構ってくれるんだろ?早く」
ほら、やっぱり。普段ならここで終わるもんだから先を要求されるなんて思ってもいなかったんだろう、余り見ることのない澪の姿は少し俺の感情を昂らせる。静まり返った空気の中、距離を詰めると真っ直ぐな瞳が微かに揺らいだ。
「……何をしたらいいかわからん」
「んな事だろうと思った」
数十秒の沈黙の後、澪の一言により張り詰めていた空気が一瞬にして溶ける。溜息が一つ零れた、澪の瞳はまだ困惑の色を残していた。こういうところがあるから無理に距離を縮めなくてもいいとは思う、滅多に見れない一面を見るだけで可愛いと思ってしまうんだ。まだもう少しの間、無自覚な幼馴染関係を継続しておこう、惚れた弱みに免じて。