「可愛いな」
ライトに照らされて色とりどりにキラキラと輝く指輪やネックレスが並べられた屋台の前を通り過ぎた時に澪が小さく呟いた。
何時だったか。記憶の中ではあやふやだがある夏の祭りの日、人混みに飲まれないように迷子防止で繋いだ手にまだ何の感情も抱いてなかった事を思い出す。ぐいぐいと澪の手を引っ張って人混みを抜ける度に屋台の前で足を止めてはりんご飴を買ったり、綿飴を半分こしたり。今からでも思い返すと我ながら何というか…、純粋だから出来た幼馴染としての行為が懐かしい。
珍しいと思った。普段可愛い小物とか女の子らしすぎる物を身につけたりは滅多にしなかった澪がアクセサリーを気にかけたから。慌てて足を止めた俺は財布の中身とにらめっこして泣け無しの小遣いでおもちゃの指輪をプレゼントした。輝きはしてるもののあんな子供騙しな指輪だってのに澪は大層喜んだ、その姿が、笑顔が、ただひたすらに嬉しかった記憶がある。
「…まだ持ってんのかよ」
実家に帰ったついでにと無理矢理にも近い形で上がらせられた澪の部屋で見つけた指輪は当時の記憶を呼び起こした。当の本人はジュースを買ってくると行って部屋に俺だけ残して出て行ったというのに。俺の親父と澪のお袋さんも写っている写真立ての真横に添えられるのかのように小さな指輪が飾られていた。角度を変えるとキラキラ光る赤色は澪に似合うと思った。もう今では入らなくなったであろうそれをこうも大事に持っていてくれてたと思うとむず痒いというか。俺があげたものだから、余計にだ。
「可愛いだろう?」
「うおっ!?」
ヒヤリとした感覚がうなじを占拠した。振り返ればコーラを片手に笑みを浮かべる澪がいた。何時の間に帰ってきていたのか、全くもって気付きもしなかった。
「懐かしいだろう、その指輪。凛に買って貰った物だぞ」
「…んなもん、もう覚えてねぇよ」
「む、忘れたのか?なら思い出させてやろう!凛が手を引っ張って屋台の前まで連れ戻した後、泣け無しの小遣いとにらめっこをしてまで私に買ってくれた可愛い指輪な」
「あぁー!わぁーった!!わかった!!もう思い出したからそれ以上はやめろ!」
「思い出したならばよし!」
覚えていると言えばからかわれるから誤魔化しでも掛けようとした結果が仇になる。まるで見てきたのかのように澪の口から語られる思い出話は俺からしたら恥ずかしい物でしかなかった。慌てて停止を掛けるといつものドヤ顔が向けられる。
「私にとって大事な宝物だからな、これは」
「…いつかちゃんとしたの買ってやるよ」
「ん?何か言ったか?」
「んでもねぇよ、気にすんな」
小さく呟いた本音は幸いにも澪の耳には届いていなかった、お返しとばかりにでこぴんを一つ額に食らわせてやった。
指輪を渡す事になるのはまだまだ先の未来。