君の味、とける味

夏の日差しが照りつける午後、波音が耳に響く漁船が並ぶ港町。直ぐ近くに海があるというのに私が言い出さない限り海から極力遠ざけようとする凛は無意識の優しさなのかそれとも多少の過保護なのか、海への恐怖はもう大丈夫になったとはいえどちらにしろ嬉しい事ではある。庭のど真ん中に置かれた盥では冷水に浸けられた西瓜が気持ちよさそうに浮かんでいる、私も浸かりたい。室内でせっせと用意を進める凛の足音を耳にしながら、小突くとぷかぷかと揺れ動く西瓜を飽きずに眺めていた。

インターフォンを鳴らして出てきた凛が大きな西瓜を抱えている図はなかなか珍しいものだった、聞けば宗介からのお裾分けらしい。私としては西瓜割りをしてみたいところだったが、残念ながら凛の許可は降りず。仕方がないのでこれから凛の手で綺麗に小分けされるであろう西瓜を堪能する事にした。

それにしても暑い、この暑さの中照りつける太陽は熱を高めるばかり、残念ながら私はそこまで我慢強くはない。きっともう冷え切ったであろう西瓜を勢いよく冷水から上げると即座に素足を浸す、暑さが足元からじわりじわりと身体を冷やしてくれるのが伝わる、とても気持ちがいい。このまま心置きなく冷やされておこう、と思ったのだが。

「…西瓜抱えて何やってんだ澪」
「暑いからもう無理だった」



二人で食べるのには大きすぎるのではないかと思っていたがそんなことは全くなく、皿の上に小綺麗に並べられた西瓜は瞬く間に姿を消していった。残された皮だけが飾られていた。体内からすっかり冷え切った身体は夏の気温を中和して程よい。隣に座る凛は最後の西瓜を口に頬張った、赤く水々しい西瓜がギラギラした歯によって削られていく様はなかなか絵になるものだ、見ていて気持ちがいい。流石は食い千切られないようになと宣言するだけの鮫である、中身は鮫らしくないが。
「凛、一口くれ」
「はぁ?お前手元にまだ残ってんだろ」
「凛のがいい」
別に暑さにやられたわけではない、凛の食べる姿を見ていると何と無く欲しくなってしまっただけだ。一瞬たじろぐような姿を見せたが、次に凛はこう言う。
「ったく、しゃーねぇなぁ」
ほら、予想通りだ。 差し出された食べかけの西瓜に被りつく、じんわりと甘さが口の中に広がっていく。同じ西瓜を食べている筈なのに不思議と違う風に感じてしまうのは凛のせいではなく暑さのせいにしておく事にしよう。手元に持っていた私の西瓜が凛に取り上げられたのは数分後の話。

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