誰かの目の雨

今から帰る、用件だけ伝えられたメールが届いた。パカパカと携帯を開けたり閉めたりし時計を見る。待ち合わせまではまだ時間はあるというのに不思議と気が急いている。我慢弱くは無いとは思うが、夏休みで一時期実家に帰省しているというのに朝早くから部活に向かった幼馴染はまだ帰宅していない。提灯が揺られる祭りの場から少し離れた所、鳥居に背を預け凛を待っていた。何人もの人が目の前を通り過ぎていく。子供達から家族連れ、はたまた恋人同士なのか。地元の小さな祭りとはいえ活気付いているのはよくわかる。
眺めているとどうしてか、親子連れに視線をとられる。母親に手を引いてもらい歩く子供、楽しそうな話し声が横顔を彩っていた。羨ましい、そう思ったことは無い。私もして貰った事はある、今更羨むような事では無い。あの頃から泣いた記憶が殆ど無い、自然と涙が出なかった。私より、父が泣きたかっただろうに。生き急いでいる訳では無いが、残された私の為に身を削る父さんもいつか、あの海に連れて行かれてしまうのだろうか。みんな海に、水に捕らわれている。凛もそうだ、彼も水からは離れられ無い。陸で生きる私とは違う。凛もいつかはあの水へといってしまう、そんな気がする。
どうしてこんな事ばかり考えてしまうのか、一人でいるのが寂しいのか。多分、お盆が近いからだ、そう思いたい。待っていればいずれ凛は来てくれるんだ、私が追いかけなくともきっと。
「澪!」
聞き慣れた声が耳に届く、視線を上げると息を弾ませた待ち人が現れた、来てくれた。
「お前、家で待ってるんじゃなかったのかよ。ったく、いなかったから心配し」
話も聞かず凛の手を取った。随分と大きく男らしくなった手は私の小さい手では全てを掴む事は出来無い。ひんやりと冷めた温度が触れた所から熱に変わっていく。暖かい、凛の体温は落ち着く。

凛は何も言わない。察してくれているのだろうか、それとも気を遣ってくれているのだろうか。俯いたままの私は凛を繋ぎとめられている手をぼんやりと眺めていた。このまま離さなければ何処にも行かないで居てくれるだろうか。今だけは、少し弱気な私を許してほしい。

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