店頭に並ぶ色鮮やかな紅い花。見かけると買わなければと、使命感に駆られ一本だけ手に取りレジに足を運ぶ。何年目になるだろう、物心をついた日から行っていた行為。買ったはいいものの渡す相手は残念な事にこの世にはもう居ない、海に奪われた。お墓か仏壇にでも備えようか、家族連れで賑わう空間に今日だけは余りいたくなかった。足早に帰路に着くと玄関先、扉に背を預けた幼馴染が帰りを待っていた。
「よう」
「凛、何故ここに」
「今日休みだろ?だから帰省してた」
そうかそれで。今日が休日で良かったのかもしれない。一人でいると何か考え込んでしまいがちになるところ凛がいてくれれば少しは気も紛らわせることが出来る。
「お前メールも電話も入れたのに見てなかっただろ」
「あぁ、すまない。全く見てなかった」
「ったく、家にいるか聞いてたのに…。まぁ、早く帰ってきたからよかったけど」
凛との距離が縮まる。ぽすり、頭に被せられたのは凛の帽子。何がしたいのか、ぱちくりと瞬きをしている合間に袋を持っていない方の手を力強く、いや強引に引かれる。
「な、なんだ!?」
「今から時間あるな?出掛けるぞ」
「まっ、まて!私は」
「いいから!」
いつもなら合わせてくれる歩幅も気にも止めずずんずんと足を進める凛に従うしかなく、引かれる手に置いて行かれないように足を速めることしか澪は出来ない。強引だ、ここまで強引な凛は殆ど見た事がない。しかし引っ張られるままというのも癪に合わない、駆け足で何とか隣に並び高い位置にある凛を見上げる。困惑する澪をよそに凛はにっこりと、まるで子どもに戻ったような笑顔を澪に向ける。太陽のようだ、眩しい。
「一人で落ち込んでんじゃねぇよ」
嗚呼、そうか。全てお見通しだったのか。家を留守にしていた事も、携帯を見なかった事も、片手で揺れる袋の中身も。気が付けば合わされている歩幅にすら優しさを感じる。込み上げて来る感情に涙腺が緩みそうになるのをぐっと堪え、前を見た。路地裏を抜けた先、広がる海の青さが待っている。