しん、と静まり返る部屋の一角、線香の匂いが漂う。手を合わせ、私に似ているのかどうなのかはわからないが、似たような赤髪を持つ母が写真の中で笑う。今思えば、髪を伸ばしたきっかけは母の流れるような赤を見て憧れていたからなのかもしれない。幼い頃の思い出だ、もうぼんやりとしか覚えていないが。母さんは、どんな声で私を呼んだのだろうか。
ピンポーン、と玄関のチャイムが軽快な音を立てて鳴る。次いで聞こえる凛の声。迎えが来た、傍に置いていた鞄を手にし玄関先へと足を早めた。
小高い丘に並んで立つ二つの墓に花を添え、水を注ぐ。手を合わせ隣で祈る凛は何を考えているのだろうか、流石の幼馴染でもそれは読めなかった。少し後に顔を上げた凛と視線が合わさる。
「寒くねぇか?」
「大丈夫だ、昨日よりは冷えたな」
「そうだな。夏も終わりか」
夕暮れへと翳り出した空にどこか寂しいような、しんみりとした気持ちになる。まだ夏が続けばいいのに、そうすれば凛はオーストラリアに行ってしまわない。子供染みた我儘だとわかっていながらも、来年はこうして二人で此処に来れない事は私にも理解できている。
帰る準備をしている凛の空いている手を取る。何か言われるか、そう思ったが凛は何も言わなかった。
「帰るか」
「うむ」
振りほどかれる事なく、力強く握り返された手のひらは、少し肌寒く感じる風すら溶かす熱を感じた。