365日目の告白劇

まだ水分を含む髪を拭きながら自室の扉を開けるが、未だにもぬけの殻。共にひと泳ぎをし終えたはずだが何処かで寄り道でもしているのか、はたまた寮内で迷っているのか。まだ戻らぬ同居人の行方を頭の片隅に置きながら机の上にある携帯がチカチカと光り、メールの受診を知らせる方に意識を逸らす。受信に記された差出人の名前は幼馴染。何が用でもあったのか、と思い当たる節は勉強を教えろ、多分それだろうと予想をしつつ本文を開く。そこには関節な一文が表示された。

"校門前で待つ"

は?
思わず素っ頓狂な言葉が出る。相変わらず主語のない、肝心な部分が抜け落ちている気合いで理解しろと言わんばかりの文章だ。そもそも校門前とは何処だ、鮫柄なのか岩鳶なのか。第一にそこに悩まされる。
ふと、送られた時間を見ると約一時間前の時刻。既に陽が落ち薄暗くなりつつある窓の外を見ると幼馴染が待ち合わせを指定した時間はとうに過ぎている。
「何やってんだよ!!」
生憎手元には何もなく、椅子に掛けてあったマフラー片手に慌ただしく自室を飛び出した。



寮を抜け校舎を突っ切ると正門が見えて来た。脚を速めるが息は乱れず。こういう時に筋トレが趣味でつくづくよかったと思う。正門の外まで走り抜けると、門に背中を預ける幼馴染の姿がそこにあった。指定された校門前は鮫柄で正解だった、何て答え合わせをしている場合ではない。
「お、凛!」
「お、じゃねぇよ!」
「何だ!?何をいきなり怒っているんだ?」
制服の上にコートを着ているとは言え、この寒空の下で一時間待機だ。有無を言わず片手に握り締めていたマフラーを澪に巻き付ける。多少乱暴に巻いたせいか、高い位置で二つに結われた髪も巻き込まれる、収まりが良い。
「何って澪、お前な…!」
「まぁまて!出会って直ぐに説教は私もごめんだぞ!折角の日にな!」
「はぁ?」
「うむ、折角の日だ。今日は凛の誕生日だろう?」
その一言に思考が止まる。泳ぎ終えた頭には誕生日という現実すら綺麗に抜け落ちてしまっていた。
「お前、まさかその為に」
「そうだ!電話で言うのも何だしな、直接祝われる方が良いに決まっているだろう!まぁ、プレゼントは家に忘れてしまったが」
「んなもん休みの日でもいいじゃねぇか…」
「何を言う?今日だからこそ意味があるんだぞ」
最後の最後に幼馴染のとんだサプライズだ。返ってこない返信を頼りに待ち続けたのか、マフラーを巻く時に触れた頬はひんやり冷たかった。もしメールに気付いてなかったらどうするつもりだったのか、ごちゃごちゃと考え込んでしまう思考を横に振り切ると、何よりもただ、澪から向けられた気持ちが嬉しく、胸の奥からふつふつと温もりが沸き上がる。
「凛、誕生日おめでとう。これでまた同い年だな!」
まるで太陽の様な笑顔が目の前に咲いた。
この笑顔が好きだ。昔からずっと、何よりも好きで好きで。
こんな時に自分から抱き締められることが出来たらどれ程よかっただろう、そこまで出来た男じゃないのは情けないが。それでも今は、彼女の冷えた手を温める事ぐらいは出来る。

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