松岡家の一員に猫が加わってから早数十年、相変わらず実家の猫にも好かれない。一体何が悪いのか、浮かぶ原因は何一つない筈だ。強いて言えるなら実家にいない事が殆どという事が挙げられるが、時間分以上の愛情を持って接して来た事は胸を張って言える。出先で見かけた猫に手を伸ばす。様子に気付いた猫は大きな欠伸を一つしてからそっぽを向く。
「凛は相変わらず猫に好かれんな」
「…るせー」
隣に立つ澪が同じ様に猫に手を伸ばし、招くと引き寄せられるかの様に、黒猫はその手に擦り寄る。この違いは一体何故なんだ、そろそろ理不尽だと思ってもいい頃だ。楽しそうに猫と戯れる澪の髪に手を伸ばし、少々乱暴にその頭を撫でる。高い位置で結われた髪が、少し大きく揺れた。澪も猫みたいなもんだ、これで帳消しだろう。
「なっ、凛!いきなり何だ!」
「んでもねぇよ」
「ははーん、さては私が猫に好かれるから嫉妬しているな!そうだな!」
半ば図星を突かれたのを隠す為、そのまま頭を撫で続けると流石の澪も口を閉ざした。澪には好かれるけどな。脳裏を過ぎった言葉は口が滑ってでも、恥ずかし過ぎて言えないものだった。