日日是好日

空港まで見送るのは親子水入らずの方がいいだろう、そう思った結果簡素なメールを一文送りつける。別に、直接顔を見なくとも最後の別れになるわけではない。小学校の時、オーストラリアへと旅立った凛とはまた違う。生きていればいつか会えるのだから、悲観的になるものではない、送信完了の表示を見届けてメール画面を閉じた途端、玄関から早々に響くインターホン。このタイミングの来客とは、大体予想がついていた、が。
「よぉ」
ガラガラと音を立てて開いた扉の向こうには案の定、凛が立っていた。格好からしてもう旅立ちの準備は終えたのだろう。一応聞いていた飛行機の時間は刻々と近付いていたし、そろそろ空港へ向かう頃では、と澪の脳裏には直接別れの挨拶をしに来たであろう凛より、そちらの方が気になり、疑問が過ぎる。
「時間、大丈夫なのか?」
「お前なぁ…、ったく。一応形なりに挨拶ぐらいさせとけって」
眉間に眉を寄せ、一度呆れたような表情を浮かべてから凛が笑う。見慣れた笑い方、よく向けられる笑顔。不思議と安心してしまうような、そんな心地良さを感じる。返す言葉も出ず、その笑顔に魅入っていると頭に何か被せられたかと思うと、視界が半分見えなくなる。それが凛の帽子だと気が付いたのは鍔を軽く持ち上げられ、視界が開けた後だった。
「まぁ、なんつーか…、長期休暇には帰省するからさ」
「私も春から東京だから行き違わない事だな?」
「そういう時は予め連絡しろ!澪と合わせなきゃ帰る意味ねぇだろ!」
別れを惜しむ雰囲気作りでもしようとしたのであろう努力すら、いつものツッコミで見事に砕いてしまったようだ。仕方がない、ここでしんみりな雰囲気など勿体無く感じるのだ。
「餞別に貰っておいてやろう」
少し大きめの帽子を脱ぐと、そのまま凛の胸元へぽん、と軽く当てる。凛の未来は、きっと明るい。笑顔で送り出すのが幼馴染みとしての役目であり、送り出せた事に意味がある。
「澪も無理すんなよ、連絡する」
「凛も元気でな、泣くんじゃないぞ」
「別に泣かねぇよ」
「とか言って、飛行機の中で…」
「泣かねぇからな!」
そう、これでいい。
これから歩いていく未来、凛の旅立ち、私の旅立ち。何が起こるか例え未知数だとしても、凛がいる。それだけで何でも出来る気さえするのだ。
軽く別れの挨拶を交わした後、遠ざかるその背中が見えなくなるまで手を振った。

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