視界の端、新しく備え付けられたベッドでもぞりと人影が動くのを捉える。日本で別れを告げた幼馴染、進路の事は詳しく話す気が無かったようで伏せていた澪だったが、まさかオーストラリアの大学に進路を定めていたとは想定外だった。澪の事だ、何事にも順応力があるから新たな土地にも直ぐに馴染むとは思うが、心配な事には変わりない。そんなこんなで合鍵も渡し、時々居座りに来ている澪の分まで手際良く朝食を作っていく。音を立て、焼きあがった目玉焼きを食パンに乗せ挟み込むと、香ばしい匂いが食欲を誘う。盛り付けた分を机に運び終えた足で、もう一つのベッドへと向かう。すっぽりと潜り込むように布団を被っている為、その姿は見えない。
「澪、起きろよ」
丸まって寝ているのであろう、その盛り上がっている背中と思われる部分に手を添える。そのままゆらゆらと揺すると、くぐもった声と共に結われていない赤髪を揺らしながら体を起こし澪が顔を出した。
「はよ」
「…おはよう」
目をこすり、覚醒していない意識を起こそうとしているその姿に思わず笑いが込み上げる。こういう所は昔から変わっていない、懐かしさと微笑ましさが混じり合う。手を差し出すと、ゆったりと重ねられた小さな手を力強く自分の方へと引く。勢いに乗り、すとんと澪の体はベットから外へと引き出される。
「牛乳飲むか?」
「飲む」
軽いやり取りを交わしながら、握ったままの澪の手を引き、机にと誘導する。お互いの時間を共有する細やかな朝の時間が、凛にとって心地の良い一日の始まりだった。