「……苦しい」
身動きがとれないこの状況をどう打破すればいいのだろうか、それはそう。今の私は呑気に昼寝をしている凛の抱き枕状態なのだ。
どうしてこうなったかというと少し前に遡る。仏頂面を浮かべた凛が家に訪れて来たかと思いきや「寝る」の一言。そのまま正面から抱きしめられベッドにダイブ、そして現状に至る。彼此数十分私のベッドの上でこのままの体勢。場所が畳の上ではなくて本当によかったと思う。
前に凛と枕がどうだという話をした事がある。私が一番寝心地が良いのは凛の膝枕である事は昔から変わりはないのだが、凛は…、そうだ。枕が変わると寝れないタイプだった、今も変わらずそれだとしたら盛大に笑ってやろう。
凛と一緒に昼寝をした事は数えきれない程何度もある、その中で私が膝枕をして貰っている方が圧倒的に多いのだが、ほんの数回こうやって凛に抱き枕にされた事がある。ここ最近はそんな事はなかったというのに、こう言う時は何か凛自身にきっかけがある時だったはず。そうでなければあの泣き虫でロマンチストな幼馴染がこんな事をしてくるはずがない。
そうだ、思い返して見ると海難事故後の数日間や凛が遙に負けた後…、だったような。また何かあったのだろうか、私の知らないところで。
幼い頃より数段と鍛え上げられた腕ががっしりと私の身体を包み込む。昔は愛嬌があって可愛かったと言うのに、すっかり逞しく育ってしまった幼馴染に少し寂しさを覚える。軽く身動ぐとぴくり、凛の身体が反応し腕の力が弱くなった。起きたのだろうか?
「凛、起きたのか?」
「…………」
顔を上げると寝呆けているのかぼんやりと目を開けたままの凛、頬をつつきたくなるような情けない顔が見れるのはきっと私だけだ。少しの優越感。
「凛?」
「……澪」
「なんだ?」
何か返事が返ってくる、そう期待していたのに次に凛がとった行動は肩口に顔を埋めるだった、また寝る気じゃないんだろうかこれは。
「…お前とだと悪い夢見なくてすむ」
掠れた声が耳に届く。
私に会う前に悪い夢でも見たのか、それとも寂しかったのだろうか、なんて。
「いい夢は見れたか?」
「そうだな…、悪くはなかった。澪がいた」
「私が?別に夢の中にまでいても変わりはないだろう」
「んな訳ねぇよ、嬉しい」
……すごく反応に困る。何だか凛の様子がおかしい、素直というかデレ全開というか。いくら幼馴染で凛が寝呆けてるかもしれないとはいえ、ストレートな言葉を掛けられると恥ずかしい。返す言葉に戸惑い口篭っていると肩口にちくり、痛みが走った。
………噛まれたのか!?思わぬ凛の言動続きに顔が熱くなる。
「澪、澪」
「何度も呼ぶな恥ずかしい!」
「いいだろ、好きなんだし」
「すっ…!?」
馬鹿なのか、こいつは馬鹿なのか!?この現状で好きだとか何だとか言われると嫌でも意識してしまう。何でもうこんなに凛に振り回されないといけないのか…!
高鳴る鼓動が凛に聞こえてない事と、凛が寝呆けているだけだと信じたい。そう強く願ってしまったのは臆病者の私が、彼との関係が変わってしまうのを恐れてるからなのかもしれない。