「そう言えば松岡、さっき澪君らしき姿を見かけたぞ!」
「はぁぁ!?何でアイツまで来てんだよ…!」
江とある程度見て回った後だというのに妹の次は幼馴染がきた、よりによって一番このメイド姿を見られたくない幼馴染だ。何を言われるかわかんねぇが確実に馬鹿にされるか笑われるかだ。この服装でなかったらそれはもう男しかいねぇ文化祭を一緒に巡るのには最高の相手だというのに、何よりもタイミングと格好が悪い。
「部長、着替えてきていいっスか」
「駄目だ、今日一日はその格好でいる事が鮫柄の伝統だからな!」
「くっそ…!!」
こうとなっては見つからないのが手っ取り早い、隠れて逃げ切るしかねぇ。そうと決めたらと意気込みをいれた時、前方から笑顔の似鳥が迫り来る。嫌な予感しかしねぇ。
「松岡先輩ー!澪さん連れてきましたよ!」
何て事やらかしてくれてんだ似鳥ぃ!!
メイド服の裾を揺らしながら手を振る後輩はここぞとばかりに空気が読めなかった。その後輩の背後からひょっこり、赤髪の幼馴染が顔を出した。あぁ、目が合ってしまった、もう逃げ場なんてねぇ。
「おぉ、やっと見つけたぞ凛!ありがとうな愛!」
「全然です!後は松岡先輩と楽しんでくださいね!」
何が楽しんでくださいだ、この状況で楽しめって方が可笑しいだろどう考えても。
「予想以上に校内が広くてな、迷っていたとこを愛に助けて貰ったんだ」
「そうだったのかよ」
「凛も見つけた事だし、さぁ回ろうか!凛のオススメは何処なんだ?」
「って、ツッコミも何もなしかよ!!」
至って変わることなく普段通りの態度を取る澪に本音が出た、いや突っ込んでもらわねぇと逆に辛い状況だ。幼馴染の男がふりっふりのメイド服着てるんだ、何かしらのリアクションしてくれねぇと困る!
「何だ?何を怒っているんだ?」
「澪、お前な…、このままの格好の俺と回ろうっていうのか!?」
「ん?あぁ、メイド服の事か!ツッコミ待ちだったのか?」
「ちっげぇよ!!…いや、違うくはねぇけど…!」
「どうせ凛の事だから触れて欲しくないのだろうと思って敢えて触れていなかったがツッコミ待ちだったとはな…!うむ、そういう格好も似合うんだな、可愛らしいぞ!」
「…全然嬉しくねぇ」
「嬉しくないか?私はどんな格好をしていようが凛は凛だと思うが」
深い意味はないであろうその言葉が心にすっと溶けるように入り込む、澪の言葉に俺は何度でも救われて来たんだ。
「勿論一番恰好いいのは水泳をしている時だけどな!」
にんまり、笑顔を浮かべた澪に手首を取られ手を引かれる。またそうやってずいずいと俺を引っ張って前へ前へと一人で行くんだろ、俺にも隣を歩かせろ。
周りから見たら異様な光景であろうがそんな事すら気にならないようにしてくれる幼馴染は本当にいつまでたっても昔のまま変わらない、俺の好きな澪のままだ。このまま文化祭を楽しむのも悪くない、澪がいるしな、なんて言葉を直接言える日は来るのだろうか。