いつかはそんな日が来る
あの後、遙達と合流したが何となく凛に会った事は言い出しにくく結局私の口から話すことはなかった。鮫柄が合宿に来ていた事は江が告げたことで判明したわけではあるが。江の配慮により水から遠ざけられた私は買い出し担当にあたったわけ、…だが。
「…しまったな」
残念なことに私は料理というものが大の苦手だ。江にはいいところを見せたくてひた隠しにしていた訳だしその事を知っているのは凛だけだというのをすっかり忘れていた。適当に買い漁った具材で何を作ればいいものか…?
「鯖はあるか」
「うおっ!?」
我ながら女子らしくない悲鳴をあげてしまったものだと思ったが声をかけてきた人物がそういった事を特に気にかけそうでなかったから問題はないか。
「なんだ遙か…、鯖か」
そういえば買っていたような、袋の中を漁って見たら見つけた缶詰。
「缶詰ならあったぞ」
「そうか、それなら鯖がいい」
袋から買い溜めておいた鯖の缶詰を取り出すと遙の目が輝いた、ような気がした。というかなんでここに遥がいるんだ、遊泳はまだということだろうか。まぁいい、鯖の缶詰以外の物をどうにかしよう。
様々な缶詰を積み上げながら用意をしているが立ち去る様子のない遙が妙に気になる、気になるが何も言おうとしない事が余計に気まずく感じる、無機質な音だけが響く。
「澪は水が嫌いなのか」
口を開いたと思えば、この。
「別に、嫌いではない」
嘘ではない、嫌いではないのは確かだ。
「なら怖いか」
咄嗟に返す言葉が何も出てこなく口を閉ざしてしまった、それなりに勘付かれないようには誤魔化してはいたが一番気付いてなさそうであろう遙に問いただされるとは思ってもいなかった。
「スイミングスクールに行ってたと凛から聞いたことがある、泳ぐことは好きだろう?」
「…そうだな、今でも好きだと思う」
「思う?」
言えるのか、凛以外の人に。いずれ水泳部のメンバーには言い出さなければ行けない事だ。ぎゅ、と握り締めた右手に力が篭る。
「遙の言う通りスイミングスクールに通っていたのは確かだ。…泳げなくなったんだ、水が怖くてな」
「水が怖い、か」
遙は口を閉ざす、再び無言の空間が私と遙の間に漂った。
「いつか澪が泳げるようになる日が来るなら凛だろうな」
「遙?」
「俺はそう思う」
ただ一言、それだけ告げて遙は海の方へ去っていった。なぜだろうか、少し気が晴れたような気がしたのは遙の言葉を受けたからだろうか。ぼんやり考えながら遙の背中を見送った。
「……この料理どうしようか」
手順通りに作ったはずが真っ黒に染まり切ってしまったカレーと名のつくものをどうお披露目するか、こちらの心配のが今の私には気がかりで仕方がなかった。もう鯖の上にパイナップルでも乗せてやるべきか。
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