相見える



会場には遙達と一緒に行く予定だったのは前日までの話だ。一人で小高い山に脚を運ぶ、墓参りと言えるほど対したものではないが何と無く母さんに報告をしておきたかった。小さく佇む墓の前に座り手を合わせる、何から報告しようか。凛がオーストラリアから帰ってきた事からがいいだろう。母さんは凛の事を大層可愛がっていたな、思い出すと自然と口元が緩む。

「あの時の凛は確かに可愛かったな」

いや、それは今もなのだが凛に言うときっと怒られてしまうだろう、凛は変わったと真琴達は言っていたが私からしたら寧ろどこが変わったというのだろうかと、まぁ凛は凛と言う訳だ。
後は、何だろうが。遙達にまた会った事、彼らが水泳部を作った事、私が水泳部にマネージャーとして入った事、一つずつあげようと思ったが切りが無い。凛が帰ってきてから本当に沢山の事があったんだ。

「母さん、毎日飽きないぞ」

あの頃はどうなるかと本当に思っていたがそんな事さえちっぽけだと思えてしまうほど今の私は満たされているのだ、幸せな事に。
傍に置いておいた小さな花を墓に添えると強めの風が舞い上がり髪を乱す、手で髪を抑えると視界に赤が過る、そんな馬鹿な。

「…何で凛がいるんだ」
「澪…」

タイミングがいいか悪いかと言えばとても悪い、前回の事があったから気まずいが今は大会前という事が大前提。格好からして試合前に親父さんの墓参りなんだろうとは思うが。

「澪も墓参り…だよな?」
「ああ、ここ最近来れてなかったからな」
「そうか」

凛は一言呟くとコツン、と拳を彼の父親の墓に当てた。今は私が口出す時ではない、風に靡く凛の髪をぼんやりと眺める事しか出来なかった。

「澪、大会で会おう」

決意の込められた瞳に返すよう、しっかりと頷いた。


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