ただいま、幼馴染。



「…鍵かかってねぇ」

ガラガラと建て付けの悪い音を響かせ扉が開いた先には規則正しく揃えられた靴が一足、中に居る事はわかる。先に言っておこう、不法侵入では無いと。右手には叔父さんから預かる形で渡されている合鍵、これが何よりもの証拠だ。チャイムを鳴らしてから数分が経った、居ないなら仕方ない、帰ろうかと思い試しに扉に手を掛けたら開いてしまった、そして冒頭に至る。
四年間訪れて無かったとはいえ変わりのない幼馴染宅の玄関に親しみを覚える反面、四年間会わなかった間に澪自身が変わってしまったのではないかと何処か会いたい筈なのに会うのが怖いような不安感に駆られている。行き先も連絡も何もしなかったのは全て俺だというのにあの心地よかった距離感を突き離してしまった。しかし、此処まで来て引返すのもどうか。

「澪」

しん、とした空間に声だけが響く。呼んでみても返事は無い、聞こえていないのか、それとも寝ているのか。

「入るぞ」

遠慮しがちに足を踏み入れていく、澪が居るとしたら絶好のお昼寝場所になっている縁側の処だろう。障子を開けると視界を過る仏壇に供えられた真新しい線香と一つの写真立てに歩みが止まる、幼馴染に似た女性が写真の中で微笑む。何か、注げなくては。

「…お久しぶりです、帰って来ました」

軽く手を合わせ一言だけ報告をする、言いたい事は沢山あるが今はまだその時じゃない、一礼をし仏壇の前を立ち去り縁側へ向かう。

「…いた」

求めていた幼馴染がいた。畳の上ですーすーと寝息をたてている、寝ていた事に何故か安心感を抱く。俺に似た赤い髪が散らばる畳に座り込む。

「髪、伸びたな」

手に掬った赤髪がはらはらと床に落ちる、髪型こそは変わっていないものの四年間、小六から高一への変化は大きい。無防備にスカートから曝け出された白い脚に思わず視線がいってしまい慌てて顔を背ける。俺は馬鹿か!女の子から女性へと変わりつつある久しぶりにあった幼馴染に頭を抱える。会わない内にいっそ忘れてしまえと思った事もあったがまるで嘘、馬鹿正直に高鳴る心臓に溜息。離れても結局俺はこの幼馴染が、澪が好きなんだと。
次に会った時は今まで通りの幼馴染でいよう、今だけは少し優越感に浸りたい。前髪を払い額に軽い口付けを落とした。


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