その背中を押せたなら
席を立つ澪ちゃんと一瞬目が合う、彼女の瞳は困惑を浮かべていた。幼馴染とチームメイトの対決、同じ事は江ちゃんにも言える事だけどそれ以上に複雑なものがあったんだろう。
上手い言葉が何も出てこなくて俺はただその後ろ姿を見送る事しか出来なかった。この勝負で何か一区切りがつく、良い方にも悪い方にも。澪ちゃんはこの決着がつくことで水泳から離れてしまうんじゃないか、と心の何処かで思ってしまっていた。詳しい理由はきっと凛しか知らないんだろうけど泳げなくなったと俺に告げた彼女が再び水に向かう機会を無くしてしまわない事だけを願っていた。
「それじゃあ俺も行ってくるよ」
渚達に声を掛け席を立つ。ハルと澪ちゃんの姿はまだない。
更衣室へ続く廊下の先から駆け足で此方に向かってくる人影が視線を捉えた。
「真琴!良かった今からか、すまない」
「澪ちゃん!」
ハルか凛に会ったんだろうか、困惑した様子は幾分薄れている様に感じた。息を整えた澪ちゃんに軽く肩を叩かれる。よかった、いつもの笑顔だ。
「頑張ってこい、真琴!」
「ありがとう」
すれ違う澪ちゃんの背中を見送ってから目を閉じる、俺も勝たないと。
ALICE+