行方は知れず



普段間近で見ている筈の真琴の泳ぐ姿を客席から必死で目で追う、気が付けば声を上げて声援を送っていた。視線を隣にやると渚が連れ戻してきた遙が立っていた。何も言わずただ同じように真琴の泳ぎに目を向けていた事に何か安心感を覚えた。遙の口から声援が発される事はなかったが真琴が、渚が、怜が泳いでいる姿を同じ観客席から見守っていた。戻って来た遙の心境に何か動く物があったのかもしれない、凛が遙を動かしたのかは私にはわからないが。

惜しいところまではいったが残念ながら地区大会を突破出来た者は一人もおらず、また来年目指そうという雰囲気が漂っている現状、なかなか口を開くことが出来なかった。何故かと言うと明日のメドレーだ。エントリーしている事を泳ぐ彼らに伝えられていない、それにこの空気。遙も先に帰ってしまったのかこの場にはいない上に天方先生に頼み込んだものの勝手にエントリーしているだなんて。同じ事を思っているのか少し緊張した表情を浮かべた江と視線が交わると力強く頷いた。

「皆さんに内緒で明日のメドレーにエントリーしちゃいました!」

手を合わせ頭を下げる江の一言に続くのは三者三様の叫び声が響き渡った。





陽は落ち遙を探しに家まで掛けて来たが肝心の遙自身の姿は其処になかった、一年生三人が遙の携帯に留守番メッセージを入れる後ろ姿に視線を移しながら縁側に座り月でも眺めているのか、真琴の隣に腰を降ろす。

「真琴は心配ではないのか?」
「ハルは多分泳がないと思う」
「…すまなかった、部長のお前に何も言わずエントリーした事は謝る」

彼等の泳ぎで少し見えた気がしたんだ、私も見たことがない。凛が追い求めている見たこともない景色を。

「お前達の泳ぎがもっと見たかったんだ、勝手な事をしたのはわかっている。でも私にも、見たことがない景色を見れる気がしたんだ」
「澪ちゃん…」
「金槌だと言い張る私がこんな事を言うのも可笑しい話だがな」
「見たこともない…景色か」

真琴の横顔は何処か決意を秘めたような意思を感じた。
遙は携帯を置いていっている事もあり留守番メッセージも意味を無くしてしまった、夜も更け始めようとしておりその場でお開きとなった。ハルは泳がない、棄権しよう。真琴の言葉には頷くしか出来なかった私達は其々の想いを胸に遙の家を後にする。

「真琴、私も此処で待つ」
「もう遅い、澪ちゃん電車でしょ?終電無くなると困るよ」
「だが…!」
「ハルの事が心配?」
「心配というか…、少し複雑なだけだ」
「俺が此処で待ってるよ、ハルが帰ってきたら連絡するから」

引き下がりたくなかったが引き下がるしか出来なかった。拳を固く握りしめ真琴に後の事を託す、真琴はハルの理解者だ、きっと何とかしてくれる。

「…頼む」
「うん」


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