ゆらゆら、揺れ動く



振りほどかれる事もなく、手を引く私の後ろを着いてきた。カラコロと下駄の音が鳴り響く薄暗かった夜道から無数の提灯が揺れる祭り会場へと向かっていた。小学校へ向かう私と反対の方向から走ってきたというとこは凛は多分、岩鳶小にいた。ロマンチストな凛だが綺麗な想い出に懐かしみ泣いていたのではないと思う、もっと別の何かが凛の中で渦巻いて大きな感情になっているのであろうか。足を止めくるりと踵を返すと俯き加減に伏せられた凛の表情を見据える。長い睫毛の下に隠された怯えたような揺らぐ瞳が私を見た。

「祭りに付き合ってくれ」

前ではなく凛の隣に並んだ。





祭りには来ているとは思っていたがよりによってあの場所でタイミングで澪と出会うとは思ってもいなかった、自分自身が情けない。別に格好つけている訳ではないけど澪の前で情けな姿を晒すのは嫌だった、いつも真っ直ぐで強く、太陽のような光に俺は憧れすら抱いていた。

「江達とはぐれてしまってな、折角の祭りだというのに何もしないのもつまらないだろう?何か食うか?」
「いや、俺は…」
「私はかき氷が食べたいぞ!ということで凛も巻き添えだ!」

無邪気にはしゃぐ澪は俺に気遣ってくれているのかそんなテンションで俺の手を引く。触れたい話題はたくさんある筈だ。思えば澪と祭りには行くのも浴衣姿を見るのも、こうやって手を繋ぐのももう遠い昔の出来事だったように感じた、そんな事はないはずなのに俺が知っている澪は小学生の頃で止まっているからぽっかりと間が空いてしまっている。綺麗に着付けられた姿はもうガキじゃねぇ事を嫌でも理解させられる。目的のかき氷を見つけたのか離れた右手が無性に寂しく感じてしまった俺の方が断然子供だ。

「コーラ味があったぞ!」

眼前に差し出されたかき氷の後ろに自分用のかき氷を持った澪がいた、俺の分までわざわざ買ってきたのか。

「わりぃ」
「お、ベンチが空いているな、座るか」

座り込むとイチゴ味のかき氷を黙々と食べ始めた澪を横目にかき氷を口に含んだ。昔、宗介と取り合った駄菓子屋のアイスを思い出す。乱れていた気持ちがスッと落ち着くような冷たさに口の中が満たされる。そういえば澪とは墓参りの時以来話していなかった。

「凛と祭りに来るのも久しぶりだな」
「今回は偶然だろ」
「あれか、鮫柄は必勝祈願で来たのか?」
「そんなところだ」
「そうか。昔は射的だヨーヨー釣りだーと凛が連れ回してくれてたのにな」
「うるせぇよ」

これ以上昔話をされるのが妙に恥ずかしくなり澪の頭を小突くとお喋りな口は再びかき氷を食べ始めた。幼馴染だというのに今更何を話すことに戸惑っているのか、情けない自分の姿を見られたのがそんなにも嫌だったのか。それでも今はただ隣に澪がいるこの状況が俺を落ち着けてくれているのはわかる、考えは纏まった。

「澪、ありがとう」
「ん、なんだ?かき氷の事か?」
「それもあるけど、まぁ…、帰る。あんま付き合ってやれなくて悪い」
「駅まで送って行こうか?」
「いや、いい」
「そうか、またな凛。今度はちゃんと祭りに付き合って貰うからな!約束だぞ!」
「あぁ」

見送る澪を後に決意を秘めた俺の足は駅に向かって走り出した。


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