問題は此処にある



教室に向かう途中で怜を見かけた、珍しく渚は一緒ではないようだ。声を掛けることは出来なかったが昨晩は深妙な顔付きをしていた分少し気掛かりなところはある。余り考え込んでいなければいいが、私から首を突っ込むわけにもいかないのでもどかしい。部活で会えるんだ、その時に一声掛けてやろう。凛と同じ背丈の背中を見送りながら祭りの時に見た凛の揺らぐ瞳が脳裏を掠める。私には何か出来ないのだろうか、歯痒さに硬く拳を握りしめた。






「すまない、遅くなった」

部活に顔を出すともう皆お揃いだった。と、思ったのだが一人居ない。腹を壊して休みらしいと滅多に休む事のない怜の話題の真っ最中だったようだ。…腹を壊す?そんな様子には見えなかったが。皆は渚の言い分に納得したのか練習を開始した。やはり、何か様子がおかしい気がする。もしかして怜は悩みの本元である凛の元へ、鮫柄学園に乗り込んだのではないだろうか?まさかだと思うが浮かぶのはそれしかなかった。今の凛と怜が対面しても良い方向に転がる結果が見えない、止めなくては。自分の中で一方的に答えを出した私は遙達に続いてプールに飛び込む前の真琴の腕を取った。

「真琴!」
「澪ちゃん?」

引き止めたのは良いが何も言い訳を考えていなかった!流石に確信はないと言うのに鮫柄学園に今から向かうから部活を抜けさせてくれなんて不自然過ぎる、振り返った真琴の純真な視線を前に何と言い訳をするべきか…!

「そ、そのだな…!私も腹が、そう腹が痛くてな!昨日食べたプリンが腐っていたのかもしれない!」
「えぇ!?プリンが!?」
「そうなんだ!だから部活抜けさせてもらってもいいか!」

真琴の瞳が僅かだが揺れた。

「…!澪ちゃん、駄目」

真琴の反応から押し通せる、と思ったが部活を抜けたいの一言は見逃して貰えなかった様で優しくお叱りを受けてしまった。揺らいだ瞳は多分私の言い訳を見抜いたからだろうか。

「しかし、」
「凛ならきっと大丈夫、ね?」

私が心配していたのは凛より怜なのだが、これ以上言い訳に言い訳を重ねることは出来ず掴んでいた真琴の腕を解くと困った様に真琴が笑った。他人から見てそこまで私は凛を気にかけているように見えるのも問題だ。


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