決戦前夜



「澪先輩、おはようございます」

教室に入る前に掛けられた声に振り返ると怜がいた、いつも通り何処も変わった所は見られない。

「怜!あぁ、おはよう」
「それでは僕はここで、また部活で」

一言挨拶を交わすと一礼をして怜はその場を立ち去った、わざわざ二年の廊下まで来て挨拶をしに来てくれたという。あの夜、怜の様子を気に掛けていた事に対する答えなんだろう。迷いは吹っ切れたか解決したのか、すっきりとした怜らしい笑顔に私の悩みも落ち着きを見せた。実際凛と会って来たのかどうか詳しい事は分からないがそれでも今の怜にとってはすんだことなのだろう、それならそれでいい。私が変に首を突っ込む必要はなかった様だ、やはり気遣いの面では真琴達には敵わないな。

「同じチームだからわかること、なのかも知れないな」

凛には、そういう相手はいるのだろうか。親友でありライバルの宗介は此処にはいない、私はただの幼馴染だ。





月日はあっという間に過ぎ迎えた地方大会前日、決戦前夜だ。残念ながらマネージャーはホテルには同行は出来ない為に明日始発で向かう事となる。遙達が乗ったバスを送り出した後私達は私達でやれる事をしよう、そう学校に戻り取り組んだのが応援弾幕。

「なかなかのハイセンスだな、江!」
「もう、澪先輩まで!」
「可愛らしいと思うぞ?」

応援弾幕に描かれた絵を眺め大満足、とてもいい出来だ。江の友達、花ちゃんこと千種の手伝いと協力もあって天方先生が声を掛けにくる前に一段落をつけることが出来た。やれる事はやった、後は彼等を応援をするだけだ。





すっかり日も落ち街灯少ない夜道を歩く事も此処では日常だ、夏とはいえ海風は少し肌寒さを感じさせた。凛も今頃会場の付近にいるのだろうか、夏祭り以来会ってもいなければ連絡も取っていない。いや、寧ろ最近の頻度がおかしかっただけだ。四年間ぽっかりと空いてしまった凛との空間を少しでも埋めたかった。明日になったら会場で泳ぐ姿を見れるんだ、それを楽しみにしておこう。

鞄に入れていた携帯が震える、こんな時間に誰だ?思い当たるのは江ぐらいだと思い手を取るとディスプレイに表示されて凛の文字。どうしてこうタイミングがいいのやら、嬉しい事には変わりない。はやる心を抑えて耳に携帯を寄せる。

「どうした、凛?」
「澪、いや少し…」
「何だ私の声でも聞きたくなったか?」
「ちっげぇよ!そうじゃねぇ!」

いつもと変わらない凛の反応に思わず笑みが零れる。

「そっちも会場近くで今日は泊りか?」
「あぁ、お前は明日来るのか?」
「朝一の電車で向かう予定だ」
「そうか」
「…どうかしたのか?」
「何でもねぇよ。今何処だ、家か?」
「いや、帰り道だ」

遠くの波の音が静かな夜道に響く、怖い筈の海なのに今は自然と落ち着く。

「気を付けて帰れよ」
「大丈夫だ!…ところで本題はなんだ?電話を掛けてきたぐらいだから何かあるのだろう?」
「あったけどなくなった」
「なんだそれは?凛にしては曖昧だな…」
「気にすんな、ありがとな」
「あっ!おいちょっと待て凛!凛…、って切られた…」

問い掛けても返ってくる言葉は何もなく一方的に切られた電話は役目を終えた。一体何だったんだ、いつもの凛かと思いきや凛らしくもないような、変な感じだ。…本当に声が聞きたかっただけとかなのか?まさか凛に限ってそんな事はないだろうが。気にしても仕方が無い、まぁ…、いいか。


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