待って、行くな。
地方大会当日、遂にこの日がやって来た。始発で向かったのもあってか遙達より先に会場入りした私達は応援席を確保し彼等の到着を待った。つい最近味わった大会の空気だというのに変に緊張するのは地方大会だからか、それとも彼等のリレーをここで見ることが出来るからか。
待ち時間の間に水分を確保しておこうと思い席を立つ。受付ではもう様々なチームが準備を始めていた。遙達の姿はまだ見えない、鮫柄もまだのようだ。昨晩、電話を掛けてきた凛の様子が少し気掛かりではある。
手にした水を一口含み観客席へ戻ろうと身体を翻す直前、背後から肩をぽん、と叩かれる。振り返る前に聞き覚えのある声が耳に届く。
「澪ちゃん、おはよう」
「おはよう真琴、着いたのか」
「受付済ませたところなんだ、澪ちゃん達のが早かったみたいだね」
「みたいだな。真琴一人か?」
「ハル達は向こうにいるよ、もう行く?」
「そうだな、一緒に行こうか」
見かけたのかわざわざ呼びに来てくれたというのか、お優しい部長さんだ。遙達と合流してから観客席へ戻る事になったが鮫柄の、凛の姿は此処でも見ることは出来なかった。
結局のところ凛を見かけたのは開会式。千種の問いかけに兄を探す江の表情が不安気に変わる。私から見ても何時もと雰囲気が違うのは見てわかった。電話越しで聞いた声とは丸っきり違うピリピリと張り詰めたような空気を漂わせていた。一体、どうしたというのだ。
そうもこうも思考を巡らせているうちに試合は始まり凛が泳ぐ出番が来た。席を立ち凛が泳ぐ姿を楽しみにしていた筈なのに、肝心の凛がそれどころではなかった。出遅れたスタート、力強さを感じられない泳ぎ、電光掲示板に表示される最下位の数字。
「凛…?」
まるで水の中から捕らわれているのか這い上がるも水から上がる事の出来ない凛が、私の知らない凛がいた。何かを感じ取ったのか遙が真っ先に席を立つ。凛のところに行くんだ、きっと。私も行かなくては、そう思うのに身体が動かず視線は凛を捉えたままだった。
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