昔話をしよう。



居座る気はなかった筈が気が付けば足は隣の冷泉家に向いていた。帰国してからというものの部活の休みには実家には一度顔を出さずのわりに澪の部屋に居座ってる事が頻繁に成りつつある。別にこれと言った用事はないが、何と無く幼馴染との時間を作りたいと思っていた。

「澪の奴遅ぇな…」

買い物をしてから帰る、先に部屋にいてくれ。と届いたメールを読み返し携帯を閉じる。幾ら幼馴染とはいえ男子が女子の部屋で待たされているのはいかがなものか、定位置となっている座布団に座りぐるりと澪の部屋を眺める。昔から変わらずシンプルに統一された部屋は見慣れてる分もあってか居心地はよかった。
ふと、コルクボードに貼られた写真と立て掛けられた写真立てに視線が行く。そこには幼い頃の俺と澪が笑っていた。あれはそう、四年生の夏。澪と行った最後の海、のトラウマの原因。





話は少し過去に遡る。
図工の授業で作った写真立てに貝殻をくっつけよう、二人で話し合って海に来た。遊びも兼ねてだったから水着を着てあちこちで貝殻を拾い集めたのを覚えている。

「凛!いっぱい拾ったぞ!」
「俺だって澪に負けてねぇぞ!」
「む、いい勝負だな」
「だろ?後でどれ使うか選ぼうぜ」

バケツ一杯になった貝殻に満足して写真立ての完成を楽しみに思い顔を見合わせ笑い合う、泳ごうとなったのはその後の事。

「海で泳ぐのは久しぶりだな」
「何だかんだでいっつもプールだもんな」
「浮き輪なしでも大丈夫か、凛?欲しかったらとってきてやるぞ?」
「泳げるっての!」

久しぶりの海は楽しかった、プールで泳ぐのとは違うただ自由気ままに水の感覚を全身で楽しんでいた。俺も気が抜けきっていたようで油断していた、振り返るとさっきまでいたはずの澪がいない。

「澪っ!?」

溺れた澪の異変に気付いた時にはもう遅かった。そこからの俺の記憶は混同している。ただ怖かった、水を飲み青ざめた澪の顔が脳裏に焼き付いて死と直結してしまった。命に別条はなかったのが何よりも安心すべき事、だというのに。

数年前、台風で起きた海難事故に巻き込まれ俺の親父と澪の母さんが亡くなった。溺れた事で澪と中にある事故への恐怖心が蘇ってしまったんだ。泳げなくなってしまった澪は一緒に通っていた佐野SCも辞めた。俺の所為で澪は水がトラウマになってしまったんだ。


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