約束をしよう。
隣に並んで海に続く道を歩く、あの頃と同じ筈なのにお互い交わす言葉はなかった。何年ぶりになるだろうか、この海は変わらない。靴を脱ぎ捨て素足で砂浜を歩く。足を軽く波に浸すとひんやりと気持ちがいい。
「海、大丈夫なのか」
「さぁ、私もわからない」
それ以来黙り込んでしまった凛から気を逸らし波の感触を楽しみながら歩く、大丈夫だ怖くない。頭ではそう理解していてもあの時の恐怖に少し手が震えた。
掴まれる左腕、振り向いた先の凛はどうしてそんな顔をしているんだ、そう言いたくなる程にどこか泣きそうに見えた。
………全くもって情けない!!
ばちーん!と痛快な音が響き渡る、振りほどいた手で両頬を挟むように思い切り叩いた。数日前とのデジャヴ、右ストレートお見舞いされなかっただけでもマシだと思え!
「いっ…、てぇぇぇ!!何すんだ澪!」
「気合だ気合!」
「今のどこに気合が必要だったんだよ!?」
「いつまでも引きずってるお前に対してだ!」
両頬に手を添えたまま下から睨みを利かす。
「あの事は仕方が無いだろう!凛が悪いわけではない、溺れたのは私の所為であって凛のせいではない、それに責任でも感じてるつもりか?余計なお世話だ!」
「俺があの時お前から目ぇ離さなかったら起きなかったかもしれないだろ!」
「かもしれない話をするな!」
止めなければ、そう思っても積りに積もった感情は溢れ出るばかり。凛の泣きそうな顔が歪んでいく、私の過去に捕らわれている凛にこっちが泣きたくなる。
「それに、…母さんの事は関係ない、凛だって同じだろう。お前ばかり一人で背負われても腹立たしいだけだ!いつまでも引きずってるんじゃない吹っ切れろ!」
我ながら理不尽極まりない事を言っているのはわかる。だけど私は凛と対等の立場にいたいんだ、幼馴染だからではない。私の本心からの思い。私自身の事で凛を悩ませているのが腹立たしくて仕方がなかった。
言いたい事は全て吐き出した。一方的に昂ぶった感情を抑えるため凛から目を背け砂浜に目を向ける。凛は、どう受け止めてくれるのか。今更言ってしまった事で彼との関係が距離感が変わってしまうかもしれない事に恐怖を抱いた。お互い言葉を発する事はなく波の音だけが響く。
「馬鹿澪」
「何だいきなり」
「言っておかねぇと気が済まなかっただけだ」
顔を上げると泣きそうな顔はどこへいったのやら、眉を寄せて笑う凛がいた。この笑顔は好きだ。
「色々考えてた事全部ぶっ飛ばしやがって」
「お前が勝手に背追いこんでただけだろう」
「澪…、お前なぁ」
ぐりぐりと少し乱暴に頭を撫でられる。凛の笑顔が仕草が、少し懐かしくて四年間で空いたと思っていた溝を埋めてくれるようなそんな気さえした。
「かわりに一つ約束をしてくれ」
「約束?」
「私が水に入る勇気が出たその時でいい。…引き上げてくれ」
その右手で、だ。
脳裏に焼き付いた沈む感覚は一人では払拭できない、だけど凛ならきっと。
「わかった、約束する」
「…いいのか?」
「何なら今すぐにでもやるか?」
「そ、それは!…まだ少し勇気がない…から」
「なら俺は待つ、海でもプールでもなんでもいい。沈んだって溺れたって引き上げてやる」
握られた手に静かに頷いた。
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