メイビー・レイディ

「成功した」
そう、確かに宗介くんは告げた。ハッキリと、嘘偽りなく。その瞬間胸の奥底から込み上げてくる思いが涙となって、ぽろぽろと瞳から溢れ落ちる。
手術を受けると聞いて、宗介くんならきっと大丈夫と思っていた。でもどこか、鯨津で同じ時を過ごしたのに、彼の異変に気付けなかった数年前のやり切れなさがずっと心の中にあった。
泣いてしまうなんて情けない、と思うのにストッパーが壊れてしまったのか、涙は止まる事を知らない。湧き上がる安堵感からか、足の力すら入らなくなってしまう。
「よかったぁ……」
へたへたとその場に座り込んで、溢れ出る涙を何度も掬っては拭う。宗介くんの顔を見たいのに、もっと言うべき言葉があるのに、視界はぼやけてしまうし、喉からは言葉にならない声しか出てこない。
「恵」
いつの間にか、目の前に座り込んだ宗介くんの大きな手が優しく頭に触れる。
「ありがとう」
「っ、あ…、そーすけくんっ…」
その言葉が引き金となり、ギリギリのところを保っていた理性はぷつんと切れてしまった。気が付けば宗介くんの首元に両手を回し、肩口に顔を埋め、声を上げて泣いていた。辛い思いをたくさんしてきた宗介くんが、また泳げる事が、水泳の道を閉ざされない事が、目指せる事が。何よりも、宗介くんの未来が明るく開かれた事が、心から嬉しくて、嬉しくて。

もう一生分は泣いたのかもしれない。子供みたいに泣く恵に宗介くんは何も言わずに、背中をずっと撫でてくれていた。涙はまだ止まらないけれど、少しは落ち着いてきた。宗介くんの服、濡らしちゃったなぁ、そう思いながらゆっくりと顔を離そうとすると、両手が頬に添えられる。そのままぐいっと、視界が上がる。強制的に涙で真っ赤の情けない顔を宗介くんに見られるなんて、羞恥でしかない。
「泣きすぎだろ」
眉を寄せ、困った様に宗介くんは笑った。目元に添えられた親指がぐしぐしと涙を拭う。宗介くんの指を伝い、涙は落ちる。
「っ、だって、嬉しくって…」
こんなに優しくされたらまた泣いてしまいそう、どっちが慰められるのかもうわからない。涙を拭われて少し開けた視界の先、柔らかに伏せられる宗介くんの瞳。それに答える様、瞳を閉じ、彼の元へ唇を寄せた。
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