恋い焦がれて神父様

(神父と悪魔パロ)

出会いは偶然。夜道を散歩する道中、ふらりと羽休めをする為に近寄るべきではない筈の協会の屋根に身体を降ろした所、祈りを捧げる神父を見つけた。月夜の光に照らされる淡い髪と漆黒との対比ががあまりにも綺麗で幻想的で。正直言うと見惚れた、一目惚れに近いようなもの。片や神父で自分は悪魔、悲しいことに真逆の立場の叶わぬ恋心。初恋は実らない、人間界の言葉にある通りになってしまうなどななしは思いもしていなかった。

これも全てあの神父がきっかけだ。決められた時間に祈りを捧げる神父の姿を覗き見ることが何よりの楽しみだった。見つからないよう視覚になる場所を確保しステントグラス越しに視線を巡らせると神父の姿を見つけた。そこまではいつも通りだったが予想外の出来事がななしを襲う。神父と視線があったのだ。視覚をついてた筈が、と不意打ちどころではない。切れ長の瞳が真っ直ぐに此方を射抜くと仰け反りバランスを崩したななしの身体は飛ぶ事すらままならぬまま地面へと落ちていった、記憶は其処で途絶えた。
「ん…、」
浮上する意識と共に重たい瞼を持ち上げる、闇夜ではない見知らぬ天井が遥か遠くに浮かび上がる。
「ここは…」
身体を起こすと目立った怪我はないがずきずきと背中が、いや全身が痛む。記憶を辿ると数分前の出来事だ。悪魔が情けない、屋根から落ちたんだと思わず頭を抱えた。
「目、覚めた?」
見知らぬ場所にきょろきょろと視線を巡らせていた先に声の主をとらえた。身体の痛みなど忘れななしは瞬時に立ち上がり後退りをした。あの神父が、まるで少女漫画の様に恋い焦がれていた張本人がそこにいた。胸元に揺れる十字架に目が行く、祓われてしまう。本能的にそう察した。
「そんなに怯えなくても、祓ったりなんてしないよ」
「え、」
「ん?あぁ、そうかこれか」
しゃらり、と音を鳴らして外された十字架の首飾りは音を立てて床に落ちた。思考の追いつかないななしの頭では一歩ずつ詰められる距離を離すことは出来ずにいた。
「ねぇ、触れてみてもいい?」
目の前に差し出される手。真意は読めない、彼が本当に何もしないのかもわからないが惹かれるようにして伸ばした指先が手の平に触れる。そのまま掬われ、握られた手は暖かい。自分の身に何も起こらなかったという安心感より一連の流れすら美しく思えてしまう頭にこれはよっぽどだ。
「悪魔の手も暖かいんだね」
「そりゃ生きてるし…」
「そうだよね。悪魔くん、名前は?」
「ななし」
「ななし、ね。俺は薫」
「かおる…、薫」
名前を呼ぶと目の前で楽しそうに浮かべられる笑みに何も返せなくなる、夢にまで見た現実が広がっている。もう思い残す事がない、このままこの現実が全て嘘で祓われて消えてしまってもいいと思える程に、彼に心を奪われた悪魔の行く末は神父にしかわからない。
ALICE+