ワンダーランドで愛を叫ぶ

各々の思いが交差する中、返礼祭の輝かしい幕は閉じられた。ひと段落つき、着替えにへと足を運んでいたところ話がしたい、とななしに声を掛けられた薫は馴染みの屋上に向かう。ななしの隣に腰を下ろし、視線を向ける。ふんわりとした空気は纏っておらず、いつになく真面目な顔でななしは赤く染まった空を見上げた。
「俺ね。ここで一区切りかなって思ってたんだ」
「それは、アイドルのこと?」
「うん、俺自身のこと」
卒業したらもうアイドルはしないかなぁ。一度だけななしがそう告げたのは記憶に残っている。その時は薫自身も明確な答えが出せていなかった。卒業後の話はぼんやりとしか触れたことがなかった。お互いが、自然と今の関係性を壊したくないのがわかっていて敢えて言い出せなかったところは多分あるだろう。
「でも薫と出会って、三年間一緒にいて。誘われて初めてユニットにも入って、Liddellっていう新しい居場所も出来て。本当に毎日が楽しくて、卒業したら当たり前がなくなってしまうのは寂しくはあるんだけど…、もっとこの先を見てみたいって思えたんだ」
淡い色を浮かべた瞳が夕陽から薫を捉える。決意を宿した瞳だった。
「ななしも俺と一緒に足掻いてみる?」
「これでもそこそこの根性はついたと思うんやけどなぁ!うん、頑張ってみようかなって。薫はれーさんと組むんでしょ?」
「そうだね、追いかけてきてくれるだろうし、待ってる子達もいるしね」
「俺はもう一回ソロに戻るかなぁ…。一足お先にって言いたいところなんだけど、俺が二人の未来を決めることは出来ないからさ。もしかしたらいつかきっと芸能界で会えるかも知れないし!」
「ソロでもやっていけるよ、ななしなら。何ならこの俺が保証するよ?」
「薫の保証付きなら心強いなぁ!」

いつものように、何も変わらない。笑い合いながら他愛のない言葉を交わす時間は二人の日常の一部。
「でも、薫とこうやって話せなくなるのは寂しいね」
「一生の別れじゃないんだからさ、いつでも会えるし連絡もする」
「俺も勿論する。連絡も電話も、会いに行くし…!うん、悲しむことじゃないってのはわかってるけどさ…、薫とのこの時間って、俺の中じゃ結構な特別なの!」
「あはは、特別かぁ。…そう思って貰えてたんだね。ななしってほんと俺のこと好きだよね?」
「一年生の時からずーっと好き!初めて声かけて貰った時から!もう今だから全部言っちゃうけど!」
「ありがと、俺もななしが好きだよ。いっぱい寄りかからせてもらったし、助けられちゃったしね」
「それは俺もだから、お互い様だよ」
「そうだね、お互い様」
少しだけ低い頭に軽く寄り掛かる。学生という括りからは解き放たれてしまうけど、このままの関係がこれからもずっとずっと続けばいいなと、黒へと色を変えていく空を見つめた。
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