それは目映いロストブルウ

昨日の今日、何となく教室にも行けず授業もサボったまま屋上で時間が過ぎるのを待っていた。いてもいなくても変わりないようなもの、それなら帰宅すればいい現状。なのに此処に留まっている、家に帰るのは何処か忍びなかった。ゲームセンターで楽しく遊んで紛らわせたと思った気持ちはまだ心中深くで葛藤を続けていた。

噴水付近を見渡すと人影が一つ。昨日は学院にいなかった彼を捉える。探し物をしているのか、首を傾げながら噴水周りを覗き込み足早に去ろうとする前、呼び止める一心でフェンスから身を乗り出す。
「ななし!」
声の先を探し、彷徨う視線が此方を見る。
「あ、薫ー!探してた!」
探し物ではなく探し人だった。こんなシチュエーション、前にもあったなぁ。そう思い返しながら笑顔で手を振ると視界からななしの姿は消えていた。数分も経たない内に、彼が此処に来てくれる事は予想がつく。何時だってそう。会いたい、話したいのなら薫から声を掛ければいい筈。それなのにななしは探してくれる、確信的な信頼が彼にはあった。



「薫ー、ちーくんから聞いたよ!昨日ゲーセン行ったんだって?しかもクラスメイトでとか!何それ羨ましすぎる…!」
「あはは、自慢された?」
「ていうか教室入った瞬間言い触らされた!俺も行きたかったなぁ…、仕事で丸一日潰されたんやから…。仕事あるのは勿論嬉しいし喜ぶべきだけどさぁ…」
百面相を浮かべながら仕舞いには項垂れるななしの頭をぽんぽんと撫でる。平日のたった丸一日会わなかかったというだけなのに、隣にななしがいる感覚は何処か不思議だ。
「じゃあ今からでも行く?」
「えっ、流石にそれはいけなくない?」
「そもそも今も授業サボってる状況だしね、今日はユニット活動もないでしょ?」
「確かに休みだけど…」
「ほらほら、次の休み時間に鞄取って来なよ」
薫との付き合いで偶に授業をサボる事はあるものの、其処は学生らしくあんまりいい気はしないらしい。それを分かりながらも少しでも強引に誘い掛けると大体は頷いてくれるのだが、今回は多少の戸惑いはある模様。悩みに悩んだ挙句、薫が、と言葉を紡ぎ出した途端顔を上げたななしが目を見開く。
「目元、いつもと違うね?」
中性的な外見の割に、男の子らしく角張った手が頬に触れる。腫れは治ったと確認した、いつもと変わりない表情も作れている。目尻に触れる指先に隠していた何かを見透かされるような気がして一瞬視線を逸らす。その先を追うように顔を覗き込まれる。
「何かあったの?」
「何でもないよ、対した事じゃないから」
「対した事ないって事は何かあったって事だからそれ!」
「まぁ、そうだよねぇ」
答えを濁す態度に顰められた眉が不信感を語りながら、頬に添えられていた温もりが離れていく。
「薫はすぐ俺に内緒事するから。んー…、まぁ薫が泣いたっていうんだから余程の事だろうし」
「えっ!俺、泣いてないってば、それななしの勘違い!ちょっと他の化粧品試してみただけなんだよね」
「えー?本当にー?」
「ほんとほんと!だからさ、ゲーセンでも海辺の散歩でもケーキバイキングでも何でも付き合うからさ!美味しいチョコレートのお店も発見したんだよ!…今日はこのまま一緒に何処か行こう?」
「そう言う事なら仕方ないなぁ。もうちょっとで授業も終わるだろうし、薫の行きたいとこに着いてくよ」
「ありがと、ななし。ちゃんとエスコートするからね」
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