白波の行方

制服のズボンを膝下まで折り上げたところから覗くななしの脚が水面に浸かる。同じ様な格好でで海に浸した薫の脚は、熱を奪われ、じわりと冷えていく。暖かくなってきたとは言え、夕暮れ時の五月の海はまだ冷たかった。冷た、小さな声が零れ落ちる。早く夏が来ればいいのに。頭の片隅でそう思いながら、脚元へと打ちつけられる波を眺める。バシャバシャと響く水音と共に、先程の小声に気付いたのか少し低い視線から覗き込むななしの手が腕を取る。
「薫、寒い?」
「これぐらい平気平気」
へらり、いつもの笑顔を浮かべて返すと、有無も言わせず、そのまま砂浜に向かって腕を引かれる。流石、勘付くのが早い。嘘を言ったところで直ぐ見抜かれるのは薫にとってどこか嬉しいものがあるが、海に入ろうと誘ったのも薫自身だった。歩く度にふわふわと揺れる、一つに緩く結われた髪を、後ろ姿を眺める。今、どんな顔をしているんだろうか。
「ななし」
名前を呼ぶ。波の音に掻き消されなかった声はななしの耳へと届く。此方へと振り返る視線を捉え、掴まれている腕を強く引き寄せた。
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