深海魚の幸福論

感嘆の声と共に、両掌をガラスにくっつけたななしは息を飲んでガラス越しの水面を見上げた。水はキラキラと反射をし、ななしの顔を輝かせる。まるで子どもの様だ。純真な姿と反応を見せられ、何処と無く親心すら感じてしまう。同級生なのに不思議なものだ。それと同時に、連れて来てよかったと、心から思う。
目の前を色とりどりの魚が行き来する度に、ななしの視線もつられて動く。同じ様に視線を動かすと、交わる視線。
「水族館、初めてだった?」
「うん。海洋生物部の部室ぐらいしか見たことなかったから…、こんな大きいの見るのは初めて!」
溢れんばかりの笑顔に思わず見てる方も笑顔になる、ななしの魅力の一つ。交わった視線はお互いそのまま水槽の中に惹きつけられる。名も知らぬ魚を見つけてはそちらに動く体を、一歩後ろからついていく。水族館独特の空気感と距離感が相待って心地よい。
「薫」
「どうしたの?」
「誘ってくれてありがとう!」
それはこちらこそ。男と二人で水族館に来るなんて今迄なら考えられなかった、その考えを覆したのは紛れもなくななしだから。
ALICE+