海をさらう声

死ぬなら海が良い。波音に混ざるよう届いた薫の言葉に顔を上げる。聞こえるように言ったのか、それとも聞こえてないと思って言ったのか。夕暮を受けた薫の視線は真っ直ぐと海を眺めている。
「俺は海は嫌だなぁ。好きだけど、やっぱり怖い」
それなら、と付け足して薫の横顔を捉える。綺麗な横顔に添うように、海風に髪が靡く。
「俺は薫とがいいな」
はっきりとした声でななしは呟く。その声は掻き消される事もなく薫の耳にも届いたようで、少し驚いたような視線が飛んできた。
「死ぬなら薫とが良い」
「それ、死ぬまで一緒って事?」
「うん。俺は薫に海で死んでほしくない」
「そっか」
その瞳に嘘偽りがない事ぐらい、薫には理解出来ていた。真っ直ぐで、隠す事のない気持ちに心が締め付けられる。その言葉に込められた意味がどれだけ大きくて嬉しい事なのか、きっと当の本人にはわかってないんだろう、そう思うと自然と笑みが零れた。
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