秋の夜更けが海になる

放課後のカフェ巡りを無事に終え、体内は生クリームましましのパンケーキに満たされる。隣を歩くななしは、チョコパフェとホットチョコレートがお気に召したようで、大層上機嫌。誘ってよかった、見ているこちらが嬉しくなる。食に関して甘いものが好きという共通点がななしと一致している事に感謝しかない。
「帰りたくないなぁ」
刻々と別れの時間が迫る中、冗談にも本音にもとれる溢れた言葉にななしの足がぱたりと止まる。幸せそうな表情は一変し、きょとんと疑問を浮かべていた。
「明日が薫の誕生日だから?」
そう言えば、そうだった。自分の生まれを祝って貰えればそれはそれで嬉しいが、今のこの時間が終わってしまう方が何処か寂しく思える。ななしとさよならをしたくないなんて、我ながら我儘だ。冗談だよ、と笑って誤魔化そうと思った途端、力強く両手を握られる。
「じゃあこのまま何処かに行こう!」
「へ?」
「まだお腹は空いてないから少し歩いて…、何処かで休んで…、最後は海がいいよね」
うんうん、と頷くななしは思考を巡らせながら、あくまで真剣な瞳を薫に向ける。薫が放った言葉を本気で取ったのだ。まさか、我儘な本音に正直に返されるとは思ってもいなかった薫の方が困惑している中、ななしは柔らかく笑みを浮かべる。
「薫が望むんだったら、俺は叶えたいな」
「ななし…」
「だって明日は薫の誕生日だし!」
家庭事情を察してくれたのか、それとも薫自身の本音に気付いたのか、答えは何方でもよかった。向けられた笑顔がななしの本音であり、彼の優しさなのは分かりきっている事だ。握られた手の温もりが物語っていた。
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