深呼吸の隙間から

決して家族仲や家庭環境が悪いという訳ではない、至って普通の一家族。だけど幼い頃に父さんが死んで以来女の世界に男一人残された俺は自分の居場所を見つけ辛くなっていた。
いつしか足は内ではなく外へ向かい、居場所を求め始めた。その頃からだったかな、写真を撮る事が好きになった。手にした一つの相棒と共に自分の足で歩き、見たもの、感じたものを残す事でななしの存在がある事を示したかったのかもしれない、なんて考えてるのはきっと周りからしたら幼稚な俺の現実逃避なんだろうけど。
風景画ばかりを残す中にいつしか被写体が入り始めたのは薫と出会ってから。俺の頼みに快く許可を下した薫は様々な表情を浮かべた。それなのに笑顔の下に何を想っているのかどこか本音が読み取れなかった、だからこそ俺は薫の事が分かりたくて知りたくてシャッターを切り続けた、分かる日が来るかもしれない一心で。


覗き込んだファインダーの焦点が一致する。夕暮れの浜辺と薫、二つの好きが混じり合い一つの世界を彩る。この瞬間が堪らなく好きで心が満たされていく。ずっとずっと、この空間の中に閉じ込めていたい。
ファインダー越しに視線を合わせ優しく微笑みを浮かべる薫が俺との距離を縮める。
「俺ばっかとって面白い?どうせならななし撮ってあげるよ」
差し伸べられた手に触れ、やんわりと拒否する。
「俺はええの、薫だからいい」
ちっぽけな俺の世界を君いっぱいで満たして欲しい。言わないけど、言えないけどそれが心に秘めた本音だと、薫は察してくれるかな、なんてね。
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